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10.いや、気のせいでしょ。
「んっ…やっ、やぁっ。」
「何だよ、呉羽。もう降参か?」
志摩さんの太い指が俺の後孔にずっぷりと埋まり、いやらしい音を立てて出し入れされている。聞くに堪えないような音は惜しげもなくドバドバと垂らされた潤滑ゼリーのせいだ。狭い孔から聞こえてくる、ぬっちゃぬっちゃと粘りつくゼリーの湿った音は部屋中に広がり俺の脳内へふわりと広がった。
*
いったい俺は何をやっているんだろう。
あんなシリアスな気持ちになってマンションに帰ってきた俺を待ち構えていたのは妙に浮かれたような表情の志摩さんだった。
「おっ。帰ってきたのか。」
志摩さんはいつもの志摩さんで、人をくったような眼差しに変わりはなかった。佐生さんが心配するような事は何もない。そう思うと、ニヤついた顔にイラっとする。俺はやっと自覚した恋心&失恋の二重な感情の変化にいっぱいいっぱいで、普段のような大らかな気持ちで志摩さんと向き合う事が出来ずにいた。
「おい、どうした、何か暗いじゃねぇか。腹でも減ってんのか?」
勝手な言い分に更にイライラは募る。
何でこの人へらへらしてんの。俺がこんなに傷ついてるのに。いいよな、自分は恋人に会いに行ってたんだろう。だからそんなに機嫌が良いんだ。
口を開いたら思ってもいない事を口にしそうで、俺は志摩さんの顔を見ないように俯いたまま小さく答えた。
「どうだっていいだろ…。」
「何だって?」
小さな声すぎて志摩さんの耳には届かなかったようだ。それでも機嫌を損ねた風でもなく、俺の傍までやってきて顔を覗き込んできた。
「なっ、何でもないって言ってんの。」
思いの外近くから瞳を覗かれて弾かれたように身体を起こした。
突然の俺の行動に志摩さんが驚いた顔をする。
「うわっ、何だよ。変な奴だな。」
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