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俺に無体な事をする志摩さんだけど、決して俺を傷つけるような事はしない。掴まれた腕も、添えられた手も、それは全部俺に痕を残すようなものではなくて。ただ甘苦しく俺を縛り付けるだけだった。
まるで大事にされているように。大切にされているように。
必死に涙を堪えていた。あとほんの少し何かのきっかけで俺の瞳からは涙が決壊したように流れてくるはずだった。
でも、今ここで泣いてなんてやらない。
志摩さんの前でなんて泣かない。
志摩さんに恋人がいたことも。俺を揶揄って遊んでいた事も。
よく考えたら全然特別な事じゃなかった。
寧ろ、そう考える方が普通だったんだ、と思う。
平和で、楽しくて。だからうっかり勘違いしただけ。
だから俺が志摩さんを好きだなんて教えてやらないし、この生活を愛していたなんて事も知られたくない。
志摩さんの前でなんて泣いてたまるか。
それは俺のなけなしのプライドだった。本当にちっぽけな物ではあったけれども。
グッっと歯を食いしばってだんまりを決め込んでいた俺だったけど…。
そう、泣いてなんてやるもんかって、本当~~に心の奥底か決意していた俺だったけど。
相手は志摩さんだった…。
業を煮やしたかのように、土産の袋が目の前でひっくり返される。
ドバドバと。そう、本当にドバドバと音を立てて落ちてきたのは、それはそれは大量の潤滑ゼリーの数々だった。
色も無色な透明だけじゃなく、卑猥なナニかの形の容器にたっぷり入ったピンクの物だったり、まるでスライムのような蛍光グリーンの物もあった。
「へ?…な、何これ?」
「ああ?土産って言っただろうが。今日一日頑張って働いてきた呉羽ちゃんには、たっぷり射精して疲れを発散してもらいたいという親心?だろうが。」
「……息子にこんなもの買ってくる親なんている訳ないじゃん。馬鹿じゃないのっ。」
腹の立つことこの上ない。
俺は普段の倍は殺意の篭った声で怒鳴った。
ああっ、やっぱり気のせいだった。
俺が志摩さんを好きだなんて、そんな事ある訳ないんだっ。
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