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2. それはまた衝撃的な
「うるせぇなぁ。人さまの頭の上で何やってんだぁ、こら。」
のそり、とベンチから起き上がった男の顔は逆光で良く見えない。
それでもシルエットからひどく長身な男なのだという事が分かった。
「おっ、おねがっ、でっ。た、たすけっ。」
「あああ?」
俺が出ない声を絞りだして言った言葉に男が少しこちらを向いた。
その瞬間、男の耳元で何かがキラリと光る。木々の隙間から差し込んだ日光が何かに当たって反射したみたいだ。
俺は流れ落ちた血で不明瞭な視界の中、必死に男の顔を見た。
「お、ねがい…しまっ…。た、すけ…。ゴホゴホッ。」
口の中に入り込んだ血液と口内に溢れる唾液が混ざり合って喉を塞ぐ。
鉄臭い匂いと味が一気に広がって吐き気がした。
「なんだぁ?チッ、てめぇら、こんな所で面倒くせぇことしてんじゃねぇよ。2対1じゃ弱い者いじめと同じだって習わなかったのか、ああ?」
ガシガシと頭を掻きながら、男がボヤく。面倒くさそうなのは口調以外にもうかがい知れたけれど、それでも俺を助けてくれそうな雰囲気を感じる。
「何だ、ワレ。関係ないヤツは引っ込んでろ、オラッ。」
吐き捨てるような弟分の声に俺はビクリと身体が震えた。
「んな大きな声出すんじゃねぇよ。あーあー、ほら怯えち待ってるだろうが。」
アニキが諫める。
「いや、突然すんません。何も俺たちは弱い者いじめしようってんじゃないんですぜ、旦那。俺に怪我させて逃げちまった野郎にオトシマエ付けさせようって事なんで。」
目の前の男に媚びへつらうような態度を取ったアニキに弟分はやや不服そうではあったが何も言わなかった。
それよりも俺は目の前の男がこいつらの言い分を信じてしまわないかと気が気じゃない。
事実、さっきまで平気そうに俺の腕を掴んでいたアニキの腕は今はさも折れました、とでもいうようにプラプラとしていて使い物にならなそうに見える。
見た目には奴らの言う通りだ。
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