鶴と亀が滑った

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     学校からの帰り道、何だか真っすぐ帰宅する気がせず、かといって盛り場などへ遊びに行くほどでもなく……。  俺の足は、近所の河原へと向いていた。  すると歩いているうちに、同じく小学生らしい、女の子たちの歌声が聞こえてきたのだ。 「これは……。『かごめかごめ』かな?」  昔風の遊びをしているものだ、と微笑ましくなった。  別に混ぜてもらおうと思ったわけではないが、ただ見ているだけでも暇つぶしになるだろうと考えて、俺はそちらへ近寄っていく。  数人の女子たちが手を繋いで踊っていた。その輪の中心には、しゃがみこんだ女の子が一人。  真ん中の子は、周りの子に代わる代わる蹴られて、ぐすぐすと泣いている。 「『かごめかごめ』って、いじめソングだったのか……」  俺は衝撃を受けると同時にハッとして、その集団へ駆け寄りながら、大きな声で叫んだ。 「こら! 何やってんだ! 蹴鞠(けまり)じゃないんだぞ!」  自分では見えないけれど、物凄い剣幕だったに違いない。  いじめ集団の女子たちは、俺という男子の迫力に気圧(けお)されて、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。  一人その場に残されたのは、真ん中でいじめの対象となっていた子だ。 「君、大丈夫? 怪我はないかい?」  俺の呼びかけに反応して、彼女は顔を上げる。涙でクシャクシャだったけれど、それでも素朴な可愛らしさの感じられる顔立ちだった。  ただし、あくまでも「素朴な可愛らしさ」程度であり、他の女子たちから妬まれるほどの美形ではない。おかっぱに切り揃えた黒髪のせいもあって、こけしを彷彿とさせる少女だった。  何故この子がいじめられていたのだろうか。何気なく考えていると、 「ありがとう。あなたは、私の浦島太郎サマね」  そう言って、彼女はニッコリと笑う。 「女の子ならば普通、こういう時は『私の王子サマ』って言うんじゃないか……?」  思わず口にしてしまうと、いかにもおかしそうに彼女は笑い出した。  その瞬間、俺の頭に浮かんだのは、ちょうど覚えたばかりの言い回し。「泣いたカラスがもう笑う」という言葉だったが、泣き続けるのと比べれば、きっと良い兆候なのだろう。  しばらくして笑いが収まってから、彼女は名乗った。 「私の名前は、亀田鶴子。よろしくね、浦島太郎サマ」  なるほど、亀田だから『王子サマ』ではなく『浦島太郎サマ』なのか。名前が変だと思われて、それが原因となり、いじめられていたのだろうか……。  漠然と俺が考える間にも、彼女の自己紹介は続く。  俺と同学年であること、一つ隣の学区域の小学校であること……。  それらを告げられた頃には、俺も自然に自分のことを話しており、俺と彼女は友達になっていた。  その後。  何度か二人で遊んだような記憶もあるけれど、しょせん子供の頃の出来事だ。いつのまにか疎遠になり、それっきりになってしまった。  そうして、すっかり忘れていたのだが……。    
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