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「……嘘」
「ホント」
ふいに柔らかい何かが首筋に触れた。その一瞬、背中を電流みたいなものが走った。
ビックリして咄嗟にその箇所に右手を当てて振り向くと、あの色素の薄い瞳が重なった。
途端に静まり返る部屋。
あ……と、思った時には既に囚われたようにそこから目が離せなくなっていて、近付いてくる唇にそっと瞼を伏せた。
それは先程の強引なものとは違って優しくて、やけに甘いキスだった。
「……こんな時でも結構緊張してるんだけど」
僅かに離れると、佐田さんはふっと表情を緩めた。
私はと言うと、今したキスを思い返してしまい、気恥ずかしさから顔を前に戻し、そうですか……と小さい声で返すしか出来なかった。
もしかしたら、佐田さんの方が緊張しているのかも知れない。
なんて……それはないか。
「さてと、そろそろ戻りますか」
佐田さんのその声でリビングに戻ると、藤子さんとお兄さんが帰り支度をしている最中だった。
不思議だったのは、二人同時に戻ったのに誰も何も触れてこなかったこと。
「菅野さん今日はありがとー、楽しかった!」
玄関口。藤子さんに抱きつかれる。
私の後ろには、佐田さんとお兄さんが居る。
突然のことに驚いたものの、私もですと言うと、顔を上げた藤子さんはニッと笑った。
「ほれ行くぞ、酔っ払い」
「あ、ちょっ……酔っ払いって私のこと?」
「しか居ないだろ」
高木さんに腕を掴まれ半ば強引に引き剥がされた藤子さんは、高木さんと一緒に玄関を出る。
その後を、ダウンを着て靴を履いた晴くんが追う。
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