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「遅いから様子見に来た、何かあった?」
「無いよ何にも、挨拶してただけ」
佐田さんの返しが少し引っ掛かる。
何も、なんてそんな筈は無いのに。
ここでする話でも、人に話す程の事でも無いのかも知れないけれど。
「ふーん、何にも、ね。そんならいいけど」
そう言うわりには納得していなさそうな顔をした高木さんは、佐田さんから私へと視線を変えて微笑んだ。
「ようこそ小都里ちゃん」
「あ……お、お世話になります」
不意打ちの笑みには些か照れくさくなりつつ、お辞儀する。
「こちらこそ、とりあえず入ろうか」
はい、と頷く。先に入った佐田さん。
私はその後を追う形で中へと足を踏み入れた。
広めのたたきに、上がり框の向こうには優しい色合いをした木目調の廊下が続いていて、そこには佐田さんが。
パーカーのポケットに手を差し込みながら、体は横向きに、顔だけをこちらに向けている。
――足のシルエットが綺麗だ。
それは率直な気持ちだった。
今頃気付く。佐田さんは高身長で足もスラッとしている事。
と言っても、筋肉質っぽい程よい細さ。
黒の細身のズボンが、足のシルエットをより際立たせているようで、まるでモデルさんみたいにスタイル抜群だ、と思った。
おまけにアイドルかってくらいの甘い顔立ち。
絶対モテるに違いない。
「おーい、小都里ちゃん」
「っ……」
声に思わずビクっとし同時に思考は断ち切れ、瞬時に振り返る。
高木さん……背後はやめよ。心臓に悪い。
「どした、突っ立って。上がらないの?」
「い、いえ、上がります!」
慌てて端の方で靴を脱ぎ、段差を上がる。
そしてまだ廊下に居る佐田さんの微かな笑い声を聞きながら、高木さんがどうぞと言って出してくれたスリッパを履いた。
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