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「そ、そういうことで、お願いします」
「ホント?」
「……はい」
「良かった、めちゃくちゃ嬉しい」
そう言って佐田さんは笑った。まるで子供みたいに。
だから、つられてこちらも笑みが浮かんだ。
嬉しいのは私もだった。
「あっ……そうだ、ひとまず戻りませんか。高木さん心配してる、かも……」
ふと、すぐ戻ると高木さんに言ったのを思い出し、方向転換してドアノブに手を掛ける。
しかし、私の横を佐田さんの手が通っていき、目前のドアにその手をついた。
「待って、まだ足りない。もう少しだけ二人で居たい」
振り返る間もなく、今度は後ろからがっつりホールドされ、耳のそばで囁かれる。
「で、でも」
「駄目?」
「……い、いえ……」
駄目とかではない。
高木さんが心配していないか、気になっているだけで。
と言うかこれは……いわゆるバックハグで、自分には一生無縁のことだなんて思っていた。
でも実際自分の身に起こると、緊張所の騒ぎじゃないらしい。
心臓はバクバクしていて破裂しそうだし、体は硬直して全く動けない。
そんな時だった。スマホの通知音が鳴ったのは。
それは佐田さんの方からで、すぐそばでスマホを操作する気配がした。
誰かからのメッセージに返信をしたのだろう。
それはそうと……もう少しっていつまで?
「小都里ちゃん、緊張してる?」
「へ? あ……えっと、しない方がおかしい……っていうか佐田さんはしないんですか?」
「してるよ、さっきからずっと」
本当に?
やること全て慣れていそうだし、普段涼しい顔をしている人が。
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