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藤子さんはあれから少し酔いが覚めたらしい。けれど、一人で帰すには危ないと、自宅まで送ることになったのだとか。
「確かに酔ってるけどさ、一人で帰れるんだから送らないでいいのに。本当、お節介なんだから」
「お節介で結構。んな酔った状態でほっといたら周りが迷惑だ」
「はっ!? あ、菅野さん真尋、またね」
笑顔で手を振った藤子さんと高木さんは、その後もわーわー言い合いながら去って行った。
『迷惑だ』なんて言いつつ、高木さんは藤子さんが心配なのだろう。
「ったく、最後まで騒々しいやつらだな」
靴を履きながらクスクス笑っているのは、佐田さんのお兄さんだ。
こちらを振り返って、じゃあ良いお年をと歩いて行った。
「……何か一気に静かになりましたね」
「嵐が去った後みたいな?」
皆が去った後、顔を見合わせては同時に吹き出した。
本当に賑やかで、楽しい忘年会だった。
来年は会社の会にも参加してみよう。
「そいや片付け残ってるんだっけ、やっとかないと」
「私も一緒にします」
リビングに戻って、佐田さんと残りの片付けする。
と言っても、大して残っていなかったけれど。
最後の空き缶を捨て終え、ふと思い出す。
そう言えば、今この家には私と佐田さんしか居ないんだ。
「そろそろ寝る?」
「へ? あ、ですね!」
思わず大きい声が出た。急に声を掛けられて。
佐田さんは一瞬目を丸くすると、ふはっと笑った。
「返事良過ぎでしょ、今の」
よほど可笑しかったらしく、声を潜めてまた笑う。
ああ好きだな……。
笑った顔も、穏やかで落ち着いたその声も。
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