9.彼の部屋、火照る体

4/36
前へ
/286ページ
次へ
  藤子さんはあれから少し酔いが覚めたらしい。けれど、一人で帰すには危ないと、自宅まで送ることになったのだとか。 「確かに酔ってるけどさ、一人で帰れるんだから送らないでいいのに。本当、お節介なんだから」 「お節介で結構。んな酔った状態でほっといたら周りが迷惑だ」 「はっ!? あ、菅野さん真尋、またね」 笑顔で手を振った藤子さんと高木さんは、その後もわーわー言い合いながら去って行った。 『迷惑だ』なんて言いつつ、高木さんは藤子さんが心配なのだろう。 「ったく、最後まで騒々しいやつらだな」 靴を履きながらクスクス笑っているのは、佐田さんのお兄さんだ。 こちらを振り返って、じゃあ良いお年をと歩いて行った。 「……何か一気に静かになりましたね」 「嵐が去った後みたいな?」 皆が去った後、顔を見合わせては同時に吹き出した。 本当に賑やかで、楽しい忘年会だった。 来年は会社の会にも参加してみよう。 「そいや片付け残ってるんだっけ、やっとかないと」 「私も一緒にします」 リビングに戻って、佐田さんと残りの片付けする。 と言っても、大して残っていなかったけれど。 最後の空き缶を捨て終え、ふと思い出す。 そう言えば、今この家には私と佐田さんしか居ないんだ。 「そろそろ寝る?」 「へ? あ、ですね!」 思わず大きい声が出た。急に声を掛けられて。 佐田さんは一瞬目を丸くすると、ふはっと笑った。 「返事良過ぎでしょ、今の」 よほど可笑しかったらしく、声を潜めてまた笑う。 ああ好きだな……。 笑った顔も、穏やかで落ち着いたその声も。
/286ページ

最初のコメントを投稿しよう!

961人が本棚に入れています
本棚に追加