9.彼の部屋、火照る体

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  佐田さんを眺めていると、佐田さんが『足りない』と言った気持ちが、何となく分かった気がした。 「あ、あの」 「ん?」 キッチンから周りに誰も居ないのを確認する。二人しか居ないのは分かっていて。 「提案なんですが……寝る前にその、ギュッとしてもいいですか……?」 目線を上げ、思い切って言ってみると、佐田さんは驚いたように目を丸くしたものの、優しく微笑んで両手を広げた。 もちろん、と。 ところが、一二歩歩いた所で左手を軽く引っ張られ、簡単に佐田さんの腕の中におさまった。 ほんの一瞬の出来事に驚きつつも、おさまったその後でそっと広い背中に両腕を回す。 「……小都里ちゃんからって思ったけど、待て出来なかった」 ふいに繰り出された台詞にふっと、思わず笑ってしまう。   「何ですかそれ。犬じゃないんですから」 「うん」 でも急にどうしたのと訊ねてこられ、こうしたくなってと、そう答えるのがやっとだった。 「そっか」 「……はい」 更に力が込められる。 物置き部屋での時は気付かなかったけれど、細身のわりに筋肉質みたいだ。 それから佐田さんの匂い、体温、感触……。 どれも心をくすぐられて、体の中からじんわり温かい気持ちになる。 これって、さっきと似ている。 好きだなと思った時と。 もっと触れたいとか、触れてほしいとか。たぶん好きってこういうことも言うのかも知れないと、彼の服を握りしめながら思った。
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