9.彼の部屋、火照る体

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  「呼び方も、名字じゃない方がいいけど……まあそこは追々で。ゆっくり慣れて」 付き合ったのに『佐田さん』と呼ぶのも変だとは思う。 けれど、その言葉にコクリと頷き返す。 無理強いはしない。あくまで私のペースに合わせようとしてくれているんだと、分かって。 佐田さんの彼女……か。 何だか夢でも見ているようで、足元がふわふわする。 部屋に一旦戻った後も、お風呂の最中もそれは続いて。 ベッドの中で今日の出来事を思い返していると、ふとあの濃厚なキスがリアルに蘇った。 付き合ったということは、この先、そういうこともするんだろう。 つまりそれ以外も? 例えば性行為、とか……。 ――と、そこまで考えてはある場面を妄想してしまい、慌てて掛け布団をすっぽり頭まで被せた。 バカ私、何を変な妄想して……。 『生殺しだなって』 ふいに佐田さんの台詞が頭を過る。 もしあのままくっついていたなら、どうなっていたんだろう――と、ぼんやり思いながら瞼を閉じた。 「あーそう。付き合った、ね」 翌朝。 食卓を挟んだ向かい側で高木さんはそう言うと、静かにカップを口にした。 数秒後、そっと下ろされたカップからは湯気と、それから淹れたてのコーヒーの香りがくゆりたつ。 私の隣では、佐田さんがこめかみを人差し指で掻いた。
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