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良かった。あの沈黙の間はどうなるかと、ちょっとヒヤヒヤしたけれど。
「そういやあれから藤子さん、大丈夫だった?」
思い出したように佐田さんが話を切り出した瞬間、ゴトッと鈍い音がした。
高木さんが手に持っていた陶器のカップを落とした音だ。
「……やべ」
「何やってんの、ヒロくん」
「悪い、手が滑って……」
「私、台拭き取ってきます」
低い位置から落下したからか、幸いカップは割れずに済んだものの、中のコーヒーが溢れてしまっている。
佐田さんがティッシュで拭いている間に、私は急いでキッチンから台拭きを取って戻った。
「ごめん、小都里ちゃん」
「いえ、大丈夫です。それより怪我しないで良かったです」
申し訳なさそうにする高木さんに笑顔で返して、最後綺麗に拭き取り、再びキッチンへ。
「はあ……」
台拭きを流水ですすいですると、こちらにまで聞こえてきた重苦しい溜め息。
気のせいだろうか。高木さんの様子が変だ。
物を落としたり、溜め息をついたり。
「……で、何だっけ?」
私が座り直した所で、高木さんが口を開く。
「藤子さん、あれから大丈夫だったかって話」
「あ、ああ……藤子な。うん大丈夫、全然。問題なし」
否、気のせいじゃない。
高木さんが藤子さんの名前を聞いて、あきらかに動揺している。
佐田さんもそれに気付いているのか、じっと高木さんを見据えている。
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