1.突然の報せと出会い

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  「コトちゃんあのさ、ごめん、その話聞き飽きたかも。流行り物には……のあたりから全然聞いてなかった」 「左様ですか、申し訳ありません、姉上様」 「いやいいけどさ……、何その意味分からんキャラ設定」 私をそう言って冷たくあしらうと、ワイングラスをテーブルの上で二回程回転させた、二つ上の姉。 菅野 志桜里(すがのしおり)が口元にそのグラスを運んだ。 細くしなやかな手の指先は綺麗なネイルが施されている。 グラスの中の赤ワインが口へと注がれていくのを眺めながら、ぼんやり思う。 お姉ちゃんになら、今みたいに何でも話せるのに……と。 どうして他の人には上手く話せないんだろう、と。 人を前にすると、何を話せばいいか分からなくなって、どもって。 誰かに声を掛けられても逃げてしまう。 まぁ、声を掛けられるなんて、そんな事滅多に無いのだけれど。 仕事だとまだ大丈夫なんだ。 仕事だからと思えばまだ……。 何だか遣る瀬無い気持ちになり溜め息を吐くと、お姉ちゃんからの視線を感じた。 「なぁに溜め息ついてんの?」 「だってさ……いや、やっぱり何もない」 缶酎ハイを両手で握りしめ身を乗り出したものの、思い直して大人しく引き下がる。 お姉ちゃんは、そ? とほんの少し首を傾げると、再びワインを口にした。 だって上手くいかない事ばっかりで。 なんて気持ちが、口を衝いて出てしまいそうになったけれど、途中で引っ掛かって噤んだ。 自分を変えようともしていないくせに、自分の置かれている状況のせいにして嫌だったからだ。 ふと目を遣った夜のテレビ番組ではちょうど、悩みを抱えている私に合わせたかのように対人関係についてのトークが芸能人の間で繰り広げられていて。 ああ、芸能人でも似たような悩みを抱えている人も居るんだな、と。 ほんの少しだけ親近感みたいなものを感じた。
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