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「コトちゃんあのさ、ごめん、その話聞き飽きたかも。流行り物には……のあたりから全然聞いてなかった」
「左様ですか、申し訳ありません、姉上様」
「いやいいけどさ……、何その意味分からんキャラ設定」
私をそう言って冷たくあしらうと、ワイングラスをテーブルの上で二回程回転させた、二つ上の姉。
菅野 志桜里が口元にそのグラスを運んだ。
細くしなやかな手の指先は綺麗なネイルが施されている。
グラスの中の赤ワインが口へと注がれていくのを眺めながら、ぼんやり思う。
お姉ちゃんになら、今みたいに何でも話せるのに……と。
どうして他の人には上手く話せないんだろう、と。
人を前にすると、何を話せばいいか分からなくなって、どもって。
誰かに声を掛けられても逃げてしまう。
まぁ、声を掛けられるなんて、そんな事滅多に無いのだけれど。
仕事だとまだ大丈夫なんだ。
仕事だからと思えばまだ……。
何だか遣る瀬無い気持ちになり溜め息を吐くと、お姉ちゃんからの視線を感じた。
「なぁに溜め息ついてんの?」
「だってさ……いや、やっぱり何もない」
缶酎ハイを両手で握りしめ身を乗り出したものの、思い直して大人しく引き下がる。
お姉ちゃんは、そ? とほんの少し首を傾げると、再びワインを口にした。
だって上手くいかない事ばっかりで。
なんて気持ちが、口を衝いて出てしまいそうになったけれど、途中で引っ掛かって噤んだ。
自分を変えようともしていないくせに、自分の置かれている状況のせいにして嫌だったからだ。
ふと目を遣った夜のテレビ番組ではちょうど、悩みを抱えている私に合わせたかのように対人関係についてのトークが芸能人の間で繰り広げられていて。
ああ、芸能人でも似たような悩みを抱えている人も居るんだな、と。
ほんの少しだけ親近感みたいなものを感じた。
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