1.突然の報せと出会い

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  「あのね、コトちゃん」 「……何?」 急にお姉ちゃんの顔つきが変わった。 何か意を決したように、神妙な面持ちで私を見るから、つられて真顔になってしまう。 「ものすごく言いにくいんだけど、実は……」 「う、うん」 ゴクリと唾を飲み込む。 そしてお姉ちゃんは数秒間を溜め込んだ後、少し上目遣いで口を開いた。 「退去する事になったんだ、この家」 「……へ? ああ、なるほど……って嘘でしょ!?」 「ごめんっ!」 口から出た台詞はあまりに現実味が無かったからか、はたまた急だったからか。 一瞬流しそうになっては驚愕して、思わず叫んでローテーブルに身を乗り出した。 お姉ちゃんが頭を下げてごめんのポーズをしたのは、それとほぼ同時だった。 何とか……辛うじて理解する。 嘘じゃないんだ……と、この部屋を出ないといけないんだ、と。 それでもまだ、僅かに信じられない。 「一希(いつき)と同棲する事になってさ」 「……いつから?」 「んー、一ヶ月後……?」 「いや一ヶ月後って……急過ぎませんかね?」 「だよね、ほんっとうにごめん! 言い出しにくくて今になって……」 再び掌を合わせ頭を下げるお姉ちゃんを前に、さーっと頭の中が真っ白になっていくようだった――。 ずっと実家暮らしだったお姉ちゃんが一人暮らしをすると言ったのが三年程前。 私も一緒に住みたいと頼み込んで、同居する事になった。 その理由は、ちょうど私も実家を出ようかと思っていたから。 けれども一人でやっていけるか、正直不安だったから。 それと、お姉ちゃんに言った事は無いけれど、お姉ちゃんは私にとっては強い味方で、一緒に居ると凄く安心するから……。
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