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ああ、でもお姉ちゃんにはお姉ちゃんの時間があって人生だってある。
年上の彼氏とも順調で、いずれ出て行く事になるんだろうとは薄々思っていた。
ただそれが思いの外早かっただけで……。
良い機会……なのかも知れない、いい加減自立する為にも。
いつまでもお姉ちゃんに甘えるわけにはいかないのだから。
「……分かった、良かったね本当に、同棲おめでとう」
「うん、ありがとうコトちゃん」
ラグの上に座り直した私は、本当は寂しいし、嫌だという気持ちをぐっと押し込んで笑顔を見せた。
おめでとうの気持ちはもちろん、嘘じゃない。
お姉ちゃんは一瞬眉を下げて困ったような顔をしたけれど、最後には笑顔を見せてくれた。
「住むとこもう決まってるの?」
「うん、職場の近くの――」
私の質問にもお姉ちゃんはそれはもう嬉しそうな顔で話すから、突然告げられた事実をもはや咎める気も起きなかった。
一か月後には彼氏の一希さんとの新しい生活が始まるんだと思うと寂しい反面、私も嬉しい。
棚の上、卓上カレンダーを一瞥する。
猶予はそんなに無い。
メソメソなんてしてる場合じゃない。
「よし、じゃあ明日は仕事休みだし、私も早速部屋探しに行ってくる」
ふんと鼻を鳴らし、片手でガッツポーズをしたらお姉ちゃんは急に慌て出した。
待って、と。そして。
「その事なんだけど……」
と、気まずそうな顔をして続けた――。
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