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『オーナーの高木さん、めっちゃ良い人だから大丈夫、安心して』
もはや泣きたくなった。
何が大丈夫なんだろう、と。
内覧へ行く事になり、その当日、私が俯いていたせいか、両肩に手を置いたお姉ちゃんからそう言われた時は。
それでも私の為に動いてくれているお姉ちゃんに、怒るなんて事は出来なかったのだけれど……。
内覧で中はある程度見させてもらっている。
その時立ち会っていたオーナーの高木さんも、良い人というのは話していて分かった。
私が使用する部屋もわりと広くて綺麗だったし、部屋がある二階にもトイレや浴室といった水回りが完備されていて、かなり有り難いとは思う。
後は、これから住人の方々と上手くやっていけるかどうか……。
不安が胸の大半を埋め尽くしているも、ここまで来てしまったらもう後には引き下がれない。
「よし」
両頬を叩く。
ずっと俯きがちだった顔を上げ、いざ呼び鈴を鳴らす。
少し待っているとインターホン越し、はーい、と高木さんの明るい声が届いた。
「あっ……す、菅野です!」
『見えてるよモニターで。すぐ行くから、玄関前で待ってて』
「は、はい!」
前に会って話までしたのに。
緊張でどもるなんて……。
こんな調子でこの先本当にやっていけるのだろうか。
「はぁ……」
遣る瀬無さに何度目かも分からない溜め息を吐いて、アプローチを歩く。
ひんやりとした風に身震いし、リュックの肩紐を無意識の内に握り締めながら。
玄関前に着いたのと同時。
ガチャリと鍵が外れる音を聞いた。
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