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ゆっくりと扉が開く。
出てきたのは高木さん……ではなく、えっと……。
「どうも初めまして、菅野さん」
「は、初めまして……」
出てきた人物はどうやら私の名を知っているらしい。
とりあえず会釈を返す。けれど。
センターパートの今時な髪型に、一際目立つ端正なお顔立ち。
色素の薄い瞳に右目尻にはホクロがあって、紺色のパーカーを着ているあなたは一体どちら様……?
頭の中、疑問符が浮かぶ。
口がポカンと開き、間抜け面を晒す私にその人は甘いマスクで微笑み掛けた。
「住人の佐田 真尋です」
「はあ……佐田さん……」
「うん、住人同士これからよろしくね」
「……」
私は静かに引き攣った笑みを返す。
瞬時に右に顔を回し、指の腹でこめかみを押さえた。
住人って……、ちょっと待って。
一旦頭の中を整理しよう。
目の前に居るのは、高木さんじゃなく別の誰かで。
お姉ちゃんからは確か高木さんと、高木さんのお子さんの他に女の人が居て、その三人が住んでるって聞いた筈なんだけど……。
それとも私が何か聞き落とした?
そう思い、お姉ちゃんとした会話を思い出せる限り、一つずつ思い出していく。
が、やはり男の人が居るなんて事は一言も言っていなかった。
高木さんも。
あ、もしかして、彼が高木さんの息子さん?
て、そんなわけない。
お子さんはまだ小さい子供だって、高木さんはそう話していた。
彼は学生に見えなくもない……けれど、恐らく二十歳は超えている。
じゃあ最近入った人とか。
可能性としては十分に有り得る。
「てかそんなとこ突っ立ってないで中入ろ、寒いから」
「っ……!」
恐る恐る彼の顔を窺った瞬間だった。突如、右手首をコートの上から掴まれた。
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