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まるで絵本のような ★
カイザーの過去に嫉妬した。それを否定できないうちに、唇が重なる。優しく触れるだけで離れた唇。すぐ目の前で祈るように見つめてくる赤金の瞳に、サリースの心臓がとくりと波打った。
『それだけか? 過去に君を取り巻く男たちと同じだと思ったからだけか? 本当に俺の過去に嫉妬する気持ちが少しもなかったか?』
確かに過去の男たちと変わらないのだと失望した。カイザーの過去がショックだった。でも本来なら怒ることではなかった。ただいつものように軽蔑すれば良かっただけ。
『サリー、君は俺の過去に嫉妬した。届かない想いに疲れた君に告白した俺が、君のように誠実な過去じゃなかったから』
真剣だった眼差し、嘘の聞こえない声。何度も顔が熱くなり、胸がときめいた。
『諦めようと思っていた時に俺に告白され心が揺らされたのに、俺を信じていいかわからなくなった』
カイザーから感じ取っていたものが、自分が思っていたものと違うかもしれないことが怖いと思った。
『俺を好きになりかけていたのに失望したから君は怒った』
怖くなって悲しくなってもう傷つきたくなくて。ないまぜになった感情が爆発した。怒りになって。信じたかったから。信じかけていたから。
『俺が君のラプンチェルになる』
そうなって欲しいと願っていたから。まだランドルフへの想いが胸に燻っているのに。
『俺を利用すればいい。君の想いに気づかないまま、もうすぐ結婚するランドルフを忘れるために。俺はサリーがランドルフを想っていた過去ごと愛するから。俺を選んでくれたら、俺が君のラプンチェルになる』
サリースは潤んで歪む視界の先のカイザーに、勇気を振り絞って震える唇で問いかけた。
「……もう、忘れさせてくれますか? 殿下を……殿下を利用してもいいですか……?」
振り返らない人を追いかけるのはとても辛くて寂しい。ほんの僅かの出来事に浮き沈みしながら期待と失望を繰り返し、ゆっくりと疲弊していく心。
誰も悪くないから苦しくて辛かった。抱え込んだ重さにはもう耐えられそうにない。
そんな気持ちを知っている自分が、好きだと気持ちを向けてくれるカイザーを利用する。自分が辛いから。
そんな卑怯なサリースの願いにも、カイザーは慰めるように微笑んだ。
「カイザーと、呼んでくれ……」
それでいいと肯定するような穏やかな響きの声に、ブワリと涙が溢れ出た。
サリースの頬を手のひらで包んだカイザーが、こぼした涙を辿るように口付けて、唇が重なった。触れるだけですぐに離れた口付けは、今度は甘くて熱くて深かった。
※※※※※
「ふぅ……あ……殿、下……」
「サリー、カイザーだ……」
「……ふっ……あぁ……カイザー、様……」
肌を辿る唇は口付けの間に、ため息のようなカイザーの声が囁く。熱を上げていく肌に、漣のように広がる刺激にサリースは声を上擦らせた。全身が小刻みに震えている。
それが初めてへの恐怖なのか、カイザーへの罪悪感なのか、全く違う何かなのかサリースにも分からなかった。
震えるサリースを宥めるように、カイザーが優しく何度も口付けを落とす。頬に首筋に耳元に。羽のように触れる唇には、確かな気遣いがあった。まるでお姫様のように大切に触れてくるカイザーに、サリースの喉奥が震える。
「……あっ!!」
重なる肌にカイザーの熱が伝わり、ゾクリと肌が粟立った。思わず上がった嬌声は甘く翻り、それが合図になったようにカイザーの手のひらが、薄くドレスをするりとはだける。
「やぁ……!! だめ……!」
まろびでた胸元をサリースが思わず両腕で隠した。胸元ばかり見られていたサリースにとって、もう胸はコンプレックスに近い恥部だった。
必死に胸元を隠すサリースの手首がそっと握られ、カイザーができるだけ穏やかな声で囁く。
「大丈夫、綺麗だ」
優しく手首を握られ促されるままにおずおずと腕を解きながら、サリースはカイザーを見上げた。穏やかな声と優しい手とは裏腹に、赤金の瞳が一層輝くかのように熱を帯びている。その視線に肢体を晒している。そう意識した途端に、急激にせり上がってきた何かに思わず唇を噛み締める。サリースの奥が熱を増し、疼くような感覚にゆらりと腰が揺れた。
不快で恐怖すら感じていた明確な男としての視線。カイザーに今注がれている視線が嫌ではなかった。羞恥を掻き立てられて、思わず視線は逸らしても、嫌などころか身体の奥を熱くする熱のこもった眼差し。
「……綺麗だ、サリー……」
ため息のように囁いたカイザーが、吸い寄せられるように白く豊かな胸元に顔を埋める。
(カイザー様は、巨乳好きだから……)
恥ずかしさを堪えながら、サリースは胸元に顔を埋めるカイザーを受け入れる。すり寄るように頬を寄せ、むにゅりと乳房を握られた。圧迫から逃れるように、指の隙間から乳房が形を変えて盛り上がる。下から押し上げるように大きな手のひらで弄ばれるのを感じながら、
(巨乳の元恋人たちにもこんなふうにしてたのかしら……)
思わず浮かんだ思考を咎めるかのように、胸の先の蕾にねろりと熱い舌が這い思考を散らされる。
「ああっ! やぁ! カイザー様!」
ピリッと弱い電流のような刺激が走り、サリースは悲鳴を上げて思わず腰を浮かせた。舌が絡めとるように這い、そのまま先端が熱い口内に吸い付かれる。
「カイザー様! だめ! へん、です……へんなの……!」
吸い付かれながら舌先で転がされるたびに、されているソコだけでなく腹の奥が引き絞られる。その奇妙な感覚に腰が揺れるのが止められない。
サリースの懇願に舌は止まらず、もう片方の頂まで指の腹で弄ばれる。弱い電流のようだった刺激が、止まらない舌に指に刺激は徐々に増幅されていく。今はもう明確な快楽になってサリースを喘がせた。
「カイザー様! カイザー様! だめ! 本当にだめ! ああっ! やぁっ! ああああーーーー!」
限界値を超えた感覚に、サリースは無意識に掴んでいたシーツを握り締め、弓形にのけ反って絶頂した。
はぁはぁと荒く呼吸を貪りながら、ゆっくりと仰け反らせた肢体がシーツに沈む。呆然としたままのサリースの顔の横がギシリと沈み、真上から影が落ちた。緩慢に視線を上げたサリースに、カイザーが優しく瞳を和ませた。
「サリー……」
「カイザー様……」
優しい声にポロリと溢れた涙に、カイザーが唇を寄せる。大丈夫と宥めるように優しい頭を撫でられ、サリースは胸が詰まった。
握りしめていたシーツを手放し、カイザーの首に縋って両腕を回す。降りてきた唇が啄みながらサリースの唇を食み、滑るように指がサリースの花芯に触れた。
「ああっ……!!」
火を灯したように熱くなったソコにサリースの喉から嬌声が迸る。カイザーが蕾を撫でるたびに、全身を侵食する熱が生まれて腰が揺れた。宥めるような優しいキスをしながら、同じくらい優しくソコをカイザーが撫でる。
「カイザー様! カイザー様!」
「サリー、大丈夫……サリー……」
ソコから生まれる熱の熱さに惑乱するように乱れ、カイザーに縋るサリースを優しくキスを落としながらあやす。
吹き込まれる声の柔らかさに、泣きたくなりながら堰を切って溢れ出しそうな熱を堪える。何も知らない無垢な身体に、丁寧に時間をかけて教えられる熱は膨れ上がり限界を迎えた。
「あああぁぁぁーーーー!!」
頤を晒して全身を弾けさせるようにサリースが絶頂する。ふわりと浮き上がるような感覚に、充足感を感じながら硬直した身体が弛緩していく。力が抜けていく身体をカイザーが抱きしめ、サリースの耳朶に優しい声が吹き込まれる。
「サリー……とても綺麗だ……」
嘘のない熱のある声。今私は悪い魔女じゃない。まるで絵本の中のお姫様になったように、大切に抱いてくれるカイザーの腕。この人にならいい。サリースは肌が重なる幸福感に小さく微笑み、カイザーを受け入れる覚悟を決めた。
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