狼、ウサギ、そして猿 ★

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狼、ウサギ、そして猿 ★

 繋がったままサリースはぼんやりとカイザーを見上げた。  額に汗で張り付いた赤金の髪、サリースを見つめる同じ色の優しい瞳。逞しい肢体が汗だくなのは、手加減に苦心したからだと分かっている。だからこそ、余計に愛おしくサリースには映った。 「……好きです……カイザー様……」  自然と言葉が溢れた。胸に止まり切れない思いが言葉になって、涙になってするりと出ていく。  見た目のせいで欲しか向けられなかったサリースにとって、汚く思えていた行為。でもこんなに幸せで優しいものにしてくれた。それはカイザーだったから。 「大好きです、カイザー様……」 「サリー……俺もだ……好きだ、サリー……」  少し震えた嘘のない言葉に、笑みをこぼしたサリースは胸板に擦り寄ろうとした動きを止めた。 「あ、の……カイザー様……?」 「あー……すまない……サリーが好きだと言ってくれると、俺だけではなく息子さんもはしゃいでしまってな……」  繋がったままのソコに収まるカイザーの息子さんが、やんちゃな気配を漂わせていることに、サリースはカイザーを恐る恐る見上げる。 「……カイ、ザー様……」 「い、今、止めようと努力している……」  ゆるりと潤んだ粘膜をカイザーの息子さんが擦り上げる感覚に、サリースは信じられないとばかりに目を見張った。ついさっきまで処女だった自分に、立て続けの二回戦は無理。目で訴えたサリースにカイザーは困ったように眉尻を下げた。 「大、丈夫だ、ちゃんと我慢できる……すぐに努力は実るはずだ……大切なサリーに……無理などさせない……俺は紳士、だ……」 「は、はい……カイザー様……でも、さっきから……あぁ……!」  言葉とは裏腹にゆるゆるとしていた動きは、徐々にグラインドを大きく深くなっていく。最奥にトンと届いた楔に、ぞわりと力が抜けるような快楽が滲んで、思わずサリースは声を上げた。空を掴んだ両手首が捉えられ、固く戒められるように引き寄せられる。 「あっあっあっ……! だめ、カイザー様……奥、だめ……」  掴まれた手首を引き寄せられながら、深く打ち込まれる楔に最奥が揺らされ、一度生まれた快楽の波紋が腰を溶かすように全身に広がり出す。 「う……あ……サリー……そんなに締め付けないでくれ……」 「あ……やぁ……カイザー様、も、だめ……だめなの……」 「あ……ああ、大丈夫、だ……サリー……俺は、紳士だ……すぐにやめる……」 「あ、ああっ……! だめぇ……!」  どう見ても紳士的じゃない激しさで、腰を打ち付けながらカイザーが声を絞り出した。  ソレでしか届かない場所を一定のリズムで揺らされ続け、ソコでしか得られない快楽にサリースの腰が思わず揺れる。最奥を穿たれるたびに、広がる波紋は重なり深くなる快楽に自身の中がうねり出すのが分かった。腰を打ち付けられるたびに、ちゅぷちゅぷと音を立てた。 「ぐっ……サリー、うねらせてはだめだ……止まらなくなる……」 「あっあっ! カイザー様、気持ちいい……ああ、いい……」 「サリー……サリー……」  止まるどころか当てるだけでなく、抉るように揺さぶり始めたカイザーに、サリースが肢体をくねらせて上り詰め始める。そんなサリースに、カイザーも紳士面ですぐに止めるという建前をぶん投げた。  掴んでいた手首を離し片手で腰を引き寄せもう片方の手で、わしっとタプタプと目の前で揺れ続けていた胸を掴む。そのまま先端に吸い付き、寝台を激しく軋ませる。性癖に非常に忠実な行動だった。 「あっあっ、もうだめ! カイザー様! カイザー様! ああっ! あああああーーーーー!!」  押し上げられた絶頂からふわりと浮き上がるように極めたサリースに、カイザーも臨界を迎えた熱を吐き出す。擦り付けるようにゆるゆると腰を揺らしながらも、おっぱいに吸い付いたまま離れなかった。荒い呼吸を整える努力より、すっぽんのようにおっぱいに吸い付き続ける姿勢は、もう真の巨乳派でいっそ立派と言えなくもなかった。 「……止まれた」  ちゅぽっとやっとおっぱいから離れたカイザーの呟きに、サリースは思わず眉根を寄せた。止まれてない。終わってから止まったところでなんの意味もなかった。 「……カイザー様、もうさすがに……」 「ああ、分かっている……無理をさせてすまなかった」  キリッと表情を整えたカイザーに頷きながら、サリースは出て行こうとしないカイザーの息子さんと、揉まれ続けるおっぱいにちょっと不安になった。 「あの、カイザー様……そろそろ……」 「……嫌いには……なっていないよな? その、無理をさせてしまったが、サリーが好きすぎて……」  心配そうな声音でちょっとしょんぼりするカイザーに、サリースはくすりと笑みをこぼすと頷いた。 「嫌いになったりしていません……わ、私も……気持ちよかったので……カイザー様が好きなままです……」  思い合って望んで肌を重ねる心地良さが、好きだという気持ちを膨らませる。ちょっとくらいの暴走は許せるほどに。 「サリー……俺の女神……!! 好きだ!! サリー!! 俺は今すごく幸せだ!!」  赤くなって微笑んだサリースに、カイザーが感激したように瞳を潤ませぎゅっと抱きしめる。 「嬉しいです、カイザー様。私も……、……っ!! カイザー様!」  サリースは繋がっているソコが感じ取った感覚に、悲鳴を上げた。再びむくりと熱くなり始める息子さんに、サリースは自分を抱きしめるカイザーの肩口をペシペシと叩く。 「大丈夫だ、サリー……俺は紳士だ……」    息子さんは紳士じゃない。嬉しそうに笑みを浮かべるカイザーに、サリースは青ざめた。さっぱり出ていく気配のない息子さんに、とても大丈夫だと思えない。  好きな人と体温を分け合う時間はとても幸せで、ちょっとくらい暴走しても許せるくらい好きを高めてくれる。でもあくまでちょっとくらいの暴走だ。大暴走ではない。長く引きこもりだったせいで、元気が有り余っているのか息子さんは鎮まる気配が微塵もない。 「サリー……君は本当に綺麗だ……その上、すごくかわいい……」 「ありがとうございます。でもあの……カイザー様、本当にもう……」 「俺はこんなに誰かを好きになったことはない……もう少しも離れていたくない……」 「あ、の……カイザー様、すごく嬉しいです……でももうそろそろ……」 「サリー……」 「ああっ! カイザー様!!」  ゆるゆると嬉しそうに動き出した息子さんに、疲労困憊のサリースは太刀打ちできなかった。  部下は(ロイド)で、弟分はウサギ(エイデン)。そしてカイザー自身はどうやら我慢の効かない猿だったらしい。サリースがブチ切れて帰るまで、引きこもりだったはずの息子さんは、あと二回洞窟探検を敢行した。 ※※※※※  絶望感が漂うエイデンの研究室で、狼とウサギと猿は項垂れていた。今日はエルナン、ロシュ、アリスの姿はない。暴君に進化を遂げたカイザーの息子さんはいる。  大人の話し合いの場に野次馬したさに子供達を止めなかった罪で、めっちゃ怒られたエイデンとロイドは子供達の持ち出し禁止が言い渡されていた。  深くため息をついた三匹は、暗く沈んだ表情を突き合わせる。 「……バカなんですか? あの状態からどうやったら怒らせられるんです? しかも理由が引きこもりからの猿とか……最低ですね」 「ロイド……黙れ。子供達をあの場に連れてこないという、良識的な常識ある対応より野次馬を優先して怒られたくせに」 「猿が良識とか常識を語らないでください」 「……狼も猿も口を閉じろ。気が散る。私は今アーシェに許しを乞う文言を考えている」 「年中発情してる変人ウサギには、良識も常識も元々ないもんね? それなのに許されるとでも?」 「ロイドのように変態ではないからな。私は許される」 「何を根拠にそう思えるのさ!」 「二人ともいいから黙れ。黙らないなら持ち出した品は、全部宝物庫に戻させるからな」  三人は王宮の宝物庫から持ち出した品を前に、深いため息をついた。狼とウサギと猿が頭を突き合わせて、許してもらうために出せた答えは、戒めの品(プレゼント)を持って謝りに行こうだった。三匹が思いつけるのは、その程度。  ロイドとエイデンにとってはお馴染みの行動に、カイザーも初参戦だ。双璧と同レベルだったことに、カイザーはショックを隠せなかった。自分は高尚だと思っていたらしい。 「お前らさ、図々しくない? なんでそんなに持ち出してるの? 一人一個までにしろよ。強盗なの?」 「いいじゃないですか、お金なら払いますよ」 「ああ、金なら有り余ってる」 「いやいやいや、金なら王宮にも溢れてるの。そうじゃなくて、宝物庫の財物は国宝なの。二つとない品なの。それを二個も三個も持ち出すなって言ってんの」 「ケチくさいですね……どうせ国宝なんかじゃ、アーシェの心は動きません……でも戒めとして贈るなら二つとない品を贈りたいだけです」 「そうだ……必要なのは誠意だ……国宝ではない……」 「エイデン……お前、誠意って言葉を知ってたんだな……」  どうせ戒められないことはこの際置いておいて、長年の弟分の著しい成長にカイザーはちょっと感激した。そして頷いた。そう必要なのは誠意。カイザーは気合を入れて膝を打つと、ガバリと立ち上がった。 「よし! 協力し合おう。俺が夫人に取りなしてやる。だからお前らも協力しろ」 「……協力?」  首を傾げたロイドとエイデンに、カイザーは力強く頷いた。 「俺が夫人にロイドとエイデンが野次馬根性丸出しで、子供達を連れて来なければアリスの《女帝の征服》も発動しなかった。それがなければ、すれ違ったままだったかもしれないと説得する」 「……それなら、許してもらえるかも」 「うむ、当事者のカイザーから言われたら、アーシェも許してくれるかもしれない」  顔を上げた双璧にカイザーは頷き、物が乱雑に積み上げられている机に向かった。 「その代わりロイドは《影糸》で到着するまでサリーが逃げないよう補足し報告。最も効果的なタイミングでの突入の合図を頼む。エイデンは……」  カイザーは机の上のナイフを取り上げ、襟足の髪をさっくりと切って赤金の髪を差し出した。エイデンお得意の髪の毛を練り込んだ呪いの装飾品。でも今のところアーシェはおそらく呪われてはないようだし、仲直りできている実績があるからきっと縁起がいい。 「俺の髪を練り込んで、そのルビーで指輪を作ってくれ。デザインはこれで頼む」 「分かった」  絶望に立ち向かう覚悟を決めた三匹は、最終決戦に挑む勇者みたいな顔で頷き合った。万全の準備をして、嫁と恋人に縋り付きにいく。 (そういえば、あれはまだ部屋にあっただろうか……)  ギフトを発動し出した二人を監督していたカイザーは、ふと思いついて足早に私室へと向かっていった。  見つけ出した品物を、指でそっと撫でてみる。許してもらえたら、必ず直接手渡そう。そう心に決めて引き出しにしまい込むと、カイザーは二人の下へと戻っていった。    
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