今日も何もなかったよ。

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今日も何もなかったよ。

 今日も何もなかった。この言葉が俺の人生を表現するのに適した言葉だろう。  カチカチとキーボードを怒りに任せて打つ姿は滑稽に見えるだろう。だが俺はそんな客観感的な視点はいらない。今目の前にある青白い光を放つ板に向かってにらめっこするのが大事なのだ。  言葉が乱立するその板の中では、罵詈雑言や無意味な自分下げ、世の中を馬鹿だと笑う人を笑う。そんな化け物たちによって構成されていた。  俺はこれを百鬼夜行と呼んでいる。夜ふと、パソコンを開くとあるいつもの光景、最初は下品なものとして人差し指と中指によって遠くに追いやっていたが気づいたらその中に取り込まれていた。  ばか、あほ、死ね。そんな低俗な言葉を毎日夜になると書き続ける。  そんな今日、俺もその百鬼夜行の中に加わりながら自分の不甲斐なさをぶつけ化け物へと変わる。体は醜くやせ細り、皮膚は老婆のように垂れ、腰は曲がる。そしてその世界へ飛び立ちたいのか画面全体をべったりとこすりつける。  ふと現実に戻り、近くにあった、現実の縁である飲みかけのペットボトルに目を向ける。そこにはプラスチックに反射して映るおぼろげな俺は笑っていた。俺は笑っていないのに笑っている。そんな笑いかけを見て何故だが心の底で何かが蠢いた。  「あははは、あひゃひゃひゃ、何だよこれ!俺が笑ってる。笑ってやがる!」  体を大きくのけぞりながら、手のひらを目元に置き、大声で笑う。何故笑ているのかわからない。だが笑うしかないのだ。  「あひゃひゃひゃひゃ!」狂ったように笑い続けて、続けて、つづけて、つづげで、づづげで、ツヅげで、ツヅゲデ、ヅヅゲデ。  「ヅヅゲデ、笑うしかないな。」と呟きながらそのまま画面に向かって頭をぶつけた。ぽたぽたと赤白い光が画面からにじみ出る。その画面には醜い化け物たちが蠢く百鬼夜行がある。  画面は一瞬、誰かの顔を映す。その顔が誰だかわからないが誰だからこそわからないこそ…い…触れて…る…だ。もしもその顔を知ったら  「笑い続けるしかないのだ!あぁぁぁぁ……。面白くなかった?」  「うん、面白くなかった。」と俺が話す渾身の怪談ヅヅゲデの完全敗北を知らせるゴングが鳴った。  今日も面白くなかったか。その言葉によって俺は肩についていたおもりをガックシと降ろした。  ここはY県G村。娯楽も少ないド田舎で、そんな田舎の中にポツンと建てられた学校で俺は3名の同級生たちに渾身の怪談を聞かせていた。  落ち込む俺を横目にあくびを醸し出しながら聞いていた田中が手を上げる。  「なに、それ?」突然の行為に俺は素っ頓狂な声を上げる。  「発言したという意味だ。それもわからないのか。」そんなこともわからないのかと馬鹿にする意図を無視しながら。  「いや、これは楽しい怪談話そう会であって、授業中じゃないんだからさ手を上げる必要はないだろ。」  「いや、これは授業と同等それ以下の会だろ。」と遠回りの貶しにダメージを負いながら。  「そうですか、そんなにつまらなかったのか、じゃあ田中君、発言をどうぞ。」と言う。  「まず、話し方がダメダメ、が連続するとき少し恥じらいがあっただろ。折角その世界観に入り込めてたのに一気に現実に戻されてしまた。他にもたどたどしいところもあったり、色々と駄目だな。食材は一流だが調理者が三流いや四流だとこんなにもひどい話になるとは実力がなければこんなにもひどくなるとを私は学んだよ。」  「結構な批評、ありがとうござんす……。はぁー。」と俺は突然の真面目な回答に頭を掻き、項垂れる。  マジの批評は期待していないかなーと心の中で思う。  するとそんな田中の隣にいた一回り小さな男性が手を上げる。  「はいはいはいはいはい!」無駄にハイテンションで怪談を披露した後には思えない。俺は中谷向かって発言の許可を与えた。  「次はボクだね、ボクが気になったのはやっぱり最後かな、最後の不気味な顔が出てくるところ結局誰だったの?」こいつは感想以上のものを持ってきやがった。  「いや、誰とかは決まってないよ。」そんなの俺も知りたいよと説明するがその説明がどうやら気に入らなかったらしく。  「エーー!決まってないの。そんなのすっきりしなよ!全然すっきりしない!」と早口で疑問を捲し上げてきた。お前はイノシシか。  「いや、怪談はすっきりするとかの話じゃなくて水飴みたいにねっとりとした恐怖を味合うもので。」対応に困り、あたふたしながら説明するが。  「エー、僕は甘ったるい水飴より爽やかなシャーベットの方が好きかな。」  「いや、今は甘いものの話をしているわけじゃなくて……。はぁー、もういいや。」と見当はずれなことを言われてしまったので俺は鼻筋を抑えながら、すべてを諦める。  もう、負けだよ。KO負けだよ。折角、頑張って取り寄せてきた怪談がぼこぼこにやられちまったよ。  「はぁーあ。」情けない声を上げながら俺は背もたれに全体重を預ける。 「今日もダメだったか。」  「そうだな。」  「そうだね。」  そう呟いた後、疲れたのか寂しい教室で眠った。  「おおおおおおーーーーーいいいいいいいいい。」  「うをぉ!」どうやら俺は深く潜ってしまったらし、やまびこによって目が覚めた俺は体をほぐしながらあたりを見渡すと外は夕焼け小焼けで焼かれていた。  「もうすぐ明日になるな。」俺は急いで帰りの支度をして、外を飛び出した。  今日も本当に何もなかったな。寂しく寝てただけか、そう思いながら夕焼けの下を歩いた。      
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