桃から生まれてしまった男①

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桃から生まれてしまった男①

起 期待 承 驚き 転 嫌悪 結 恐怖・悲嘆 ー1  感情:期待ー  むかしむかし、ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。 「はぁぁ、しんどい。腰も痛いし肩も上がらんわ。下女の1人も居たら楽できるのにねぇ」  お婆さんは、めっきり悪くなった腰を叩いては、布切れを洗いました。足踏みによる押し洗いなので、腰の負担はマシな方です。 「あぁ冷えるねぇ。夏なら気持ちいい所だけど、この季節じゃあねぇ」  お婆さんが慣れきったグチこぼすと、川上から何か大きな物が流れてきました。 ――ドンブラコ、ドンブラコ。  ゆっくりと流れてきたのは、大きな大きな桃でした。 「あれまぁ、こりゃたまげたわ。しばらくは食うのに困らないねぇ」  お婆さんは腰の痛みなどスッカリ忘れて、巨大な桃を抱えて帰りました。  家で待っていたお爺さんは、あまりの出来事に腰を抜かしてしまいます。 「婆さん! これは何事じゃ!?」 「お爺さん。四の五の言わず食べましょう。当分は桃料理ですからね」 「そうは言うけどよ、村長に相談した方が良くねぇか? 何ぞバケモノでも飛び出したら、一大事だぞ」 「言われてみたら、そうですねぇ。では剥きますよ」  お婆さんは食欲に敗北を喫しました。お爺さんが止めるのも聞かず、牛刀を振り下ろします。  するとどうでしょう。桃の中から、それは元気な元気な赤ん坊が飛び出したではありませんか。 「バケモノ!? いや、これは、赤子か?」 「どうしましょう、お爺さん。この桃、可食部位が残ってませんよ」 「婆さん、桃の事は忘れろ。それより、この子をどうしたもんか……」 「育てましょう、私達で」 「正気か? 年寄り2人で子育てなんて、身体がもたねぇぞ」 「私達には子がおりません。丁度良いじゃありませんか。将来は介護要員になってくれますよ」 「うむ。確かに、そのとおりだ。ではワシらで、どうにか育ててみようかね」  この不思議な赤子を育てるのに、果たして何年かかるだろうか。2人は不安でした。  しかし、赤子はみるみるうちに幼児となりました。そして、1年と経たぬうちに、たくましい青年へと成長したのです。これで老後は安泰だと、お爺さんもお婆さんも喜びました。  振り返れば、ここが彼らにとって、幸せの絶頂だったと言えるのです。
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