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 ピューピューと冷たい向かい風の中、ボクは足を進めていく。ぶるっと全身を震わせても、可哀想な犬を見ている人ばかり。 (ねぇ、だれかボクを家族にして)  つぶらな瞳で見つめて見るけれど、足早に逃げていくんだ。こうして、今日もまたエサを探しに歩かないといけない。  ワンワン!!  ノラ犬歴が浅いボクは、エサの場所を知らない。散歩中の犬に聞いて向かう日々を繰り返すんだ。 (エサ?おれはペット犬だから知らないな)  ぽてっと大きなお腹をしたミニチュアダックスフンドが、答えてくれる。  あんなにお腹が膨れるほど食べられて、キミは幸せな犬だよと、ワンとひと鳴きする。  ワンワン・・・ (ペットだから、幸せだとは限らないぜ?おれなんて食べ過ぎて、散歩の回数増えたんだからな・・・・まぁ、捕まらないように気を付けるんだな)  ノラ犬になって大変なときはエサを探すときと、寝床を探すとき。そして・・・  ワンワン (ありがとう、キミは幸せにね)  保健所の人間に捕まらないように生きていかなければならない日々。 「ごめんなさいね。くうたくんだけで、精一杯なの」  キミは、くうたくんと言う名前なんだね  リードを持っている飼い主さんに向けうるうるの瞳を向けたけれど、また断られた。  ペットからノラ犬になった犬が、ふたたび、ペット犬に戻るなんて奇跡に近い。 *  前足が汚れていく  いつか、全身も同じように汚れていくのか  そんなことを思いながら、ボクはボクが入っていた段ボールへと戻っていく。  
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