弱者の味方

1/1
前へ
/4ページ
次へ

弱者の味方

三郎という漁師が年老いた母親とふたりで暮らしていた。三郎は天然モノをこよなく愛する昔ながらの漁師だった。 ある日、三郎が海に行くと若い女性がスウェットスーツの男たちに囲まれていた。伏し目がちな女性は当惑しているようだった。正義感にあふれる三郎は近づくと彼らに声をかけた。 「あれ? 里帆さん。今日は非番じゃないの?」 突然見知らぬ男に声をかけられ、女性は驚いていた。 「えっ?」 「休みの日も大変だね。そいつ等はひょっとして密漁者!?」 「密漁…あのう…」 「この辺りは密漁者が多くてね。初動が肝心だ。中には暴力的な(やから)もいるんだよ。だから、妥協しちゃいけない。捕まえた魚を逃しても無罪にはならないからね。ところで、身分が証明できるものは確認したの? 俺も手伝おう」 「はい、お願いします」 すると、男たちは蜘蛛の子を散らすようにどこかに行ってしまった。 「行っちゃったね」 「助けて頂いてありがとうございます」 「警察のフリが効いたみたいだ。本物の警察官なら怪しい人たちを逃さないのにね」 「そうみたいですね。何とか上手く誤魔化せました。私、知らない人たちに声をかけられて困っていたんです。そうだ、ぜひお礼をさせてください!」 「別に気を使わなくても良いよ」 「そんなこと言わずに何か…」 「キンコーン、カンコーン。キンコーン、カンコーン」 11時30分の防災無線のチャイムが鳴った。 「もうお昼ですね。どうか私にお昼をご馳走させてください」 「大したことはしていないし。会ったばかりだし…」 「私、亀山乙姫(かめやまおとひめ)と言います。歩いてすぐそこのマンションに住んでいるんです」 「う〜ん」 「近いですよ」 三郎は悩んだが、彼女の熱烈アピールに従うことにした。これも一期一会だ。 「俺は浦島三郎です」 「三郎さん。良い名前ですね。なんだか運命を感じます!」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加