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弱者の味方
三郎という漁師が年老いた母親とふたりで暮らしていた。三郎は天然モノをこよなく愛する昔ながらの漁師だった。
ある日、三郎が海に行くと若い女性がスウェットスーツの男たちに囲まれていた。伏し目がちな女性は当惑しているようだった。正義感にあふれる三郎は近づくと彼らに声をかけた。
「あれ? 里帆さん。今日は非番じゃないの?」
突然見知らぬ男に声をかけられ、女性は驚いていた。
「えっ?」
「休みの日も大変だね。そいつ等はひょっとして密漁者!?」
「密漁…あのう…」
「この辺りは密漁者が多くてね。初動が肝心だ。中には暴力的な輩もいるんだよ。だから、妥協しちゃいけない。捕まえた魚を逃しても無罪にはならないからね。ところで、身分が証明できるものは確認したの? 俺も手伝おう」
「はい、お願いします」
すると、男たちは蜘蛛の子を散らすようにどこかに行ってしまった。
「行っちゃったね」
「助けて頂いてありがとうございます」
「警察のフリが効いたみたいだ。本物の警察官なら怪しい人たちを逃さないのにね」
「そうみたいですね。何とか上手く誤魔化せました。私、知らない人たちに声をかけられて困っていたんです。そうだ、ぜひお礼をさせてください!」
「別に気を使わなくても良いよ」
「そんなこと言わずに何か…」
「キンコーン、カンコーン。キンコーン、カンコーン」
11時30分の防災無線のチャイムが鳴った。
「もうお昼ですね。どうか私にお昼をご馳走させてください」
「大したことはしていないし。会ったばかりだし…」
「私、亀山乙姫と言います。歩いてすぐそこのマンションに住んでいるんです」
「う〜ん」
「近いですよ」
三郎は悩んだが、彼女の熱烈アピールに従うことにした。これも一期一会だ。
「俺は浦島三郎です」
「三郎さん。良い名前ですね。なんだか運命を感じます!」
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