12 伯爵家

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12 伯爵家

「私がポボス・モーモス子爵である!」 座っていたデスクから立ち上がりその男がこちらまで歩いてくる。 貴族らしからぬ引き締まった体だ……背は小さいけど。というかまだ若いよね? そしてマイちゃんに優しく手を伸ばす。 マイちゃんも可愛いお手てを伸ばして上下にふりふり。 「マイです。よろしくおねがいします!」 「うむ。良くできたお嬢ちゃんだ。明日からよろしくたのむ。報酬なんかはアシスに聞いてくれ」 「アシス、さん?」 「私がアシスですよ。マイさん」 マイちゃんが振り向いて先ほどの執事風のおじさんを見るとにっこりと笑顔を見せてくれていた。なるほど。アシスさんか。セバスチャンではなかった。異世界あるあるを思い出し残念がる私。 「アシスさん、よろしくおねがいします!」 またもぺこりとお辞儀をするマイちゃん。 「では後は任せたである!」 そう言うとまたデスクに戻っていった。どうやらまだ仕事がたくさんあるようだ。書類の山って本当にあるんだね。やっぱりこの伯爵、有能なのかもしれない…… その後、別室に移動してアシスに説明を受ける。 週5日間、毎日朝からお昼過ぎまでの6時間程度の清掃などを行い、出来れば給仕なども追々覚えてほしいとのこと。あと報酬は月に金貨30枚ということも説明された。まあ妥当な線だろう。 10日毎に10枚という感じで支給されるようだ。 週5日であれば、休みの日はのんびり街を散策したり軽めにダンジョンに潜るのも良いかもしれない。 でも考えてみたらマイちゃん5才なんだけど…… そこらへん何もつっこまれないんだね。まあハゲ邸でも雇われてたんだしね、別の目的だったみたいだけど。とハゲ男爵のことを考えていたらちょっと寒気がした。もう思い出すのは止めよう。 そう言えばアシスがこの部屋来る前にアシスが色々と聞き出してたことを思い出す。 ……あれは面接がわりかな。やはり優秀な男のようだ。 さりげなく『鑑定眼』でアシスのステータスを覗き視ると、能力値はそれほど高くないものの、ギルド長と同じ『交渉』スキルを持っていた。でもそれ以外はそれらしいスキルは無いようだ。 私がそんなことを考察しつつもアシスは適度にお菓子とお茶をメイドに用意させたりと、快適な環境を提供しているのでマイちゃんもご機嫌である。椅子に座って足をパタパタとさせて私を誘惑している。相変わらず可愛すぎて困る。 一通り説明も終わりやっと帰宅する。 アシスと、すでに自己紹介を終えた同僚となる金髪メイドのマリアちゃん18才に見送られ伯爵家を後にする時はマイちゃんがちょっと寂しそうな顔をしていた。今晩はマイちゃんに抱かれて眠ろう。 ◆◇◆◇◆ 次の日、朝早く起きたマイちゃんに念のための『浄化』をかけて朝ごはんをギルド内の食堂で頂く。 途中イーリスが「これ食べる?」「これも美味しいよ?」と必死で餌付けをしていたのを見守る。マイちゃんも最近は良く食べるようになったし、冒険者としてもっとレベルを上げていけばさらに食欲も…… マッチョなマイちゃんか……いや、多分マイちゃんはマイちゃんのままなはず! 私は一瞬想像してしまった不穏な未来を脳内から消去した。 「マイもうお腹いっぱい!」 その言葉を合図に再び『浄化』してゆっくりと伯爵家まで歩く。早朝の爽やかな風を気持ちよさそうに浴びているマイちゃん。私のお宝SSフォルダが脳内に日々増えてゆく。 「おはようございます!」 「おお、おはようお嬢ちゃん。早速今日からお仕事かい?」 「うん!今日からよろしくおねがいします!」 「ああ、よろしくね」 館の門番さんとも挨拶を交わす。昨日も対応した年配の門番さんはニコニコ。もう一人の若い門番さんはデレデレしていた。 そのまま昨日アシスの案内で通った道をタタタと小走りで進むマイちゃん。大きな玄関から右に折れ、脇にある小さな玄関を開ける。ここが職員用の入り口になる。ちゃんと覚えていたマイちゃんは賢い! 「おはようございます!」 「おはようございますマイさん」 マイちゃんの元気な挨拶ですでに待機していたアシスと他のメイドさん達も挨拶を返す。 その勝手口を抜けた際に一瞬違和感を感じた。 脇を見ると何やら両側に魔道具が置いてある。セキュリティか何かだろうか?と思って『鑑定眼』を使うと…… ―――――― 『浄化灯』殺菌消臭機能のある魔道具 ―――――― なるほど。確かにこの大きな部屋は倉庫にもなってるし厨房にもなっている。ここで『浄化』は必要不可欠か。しかし魔法の世界は便利だな。でも『浄化』持ちを雇ったり各部屋にこの装置付けとけば掃除いらずでは? この疑問はいつかチャンスがあれば聞いておこう。なんなら隙を見てマイちゃんに聞いてもらうように話しておこう。 まずは昨日はいなかったメイドさんがマリアちゃんの他に2名。他にも4名ほどいるが本日はお休み2名に夜番が2名とのこと。あとは執事さんがアシスの他に2名。まだ見習いだという。 そして厨房では忙しく料理が作り終わって並べられている。料理人は2名で朝食を作っているようだ。 そして始まったマリアちゃんの研修タイム。 まずは料理をワゴンのようなものに乗せる。まだ給仕は任されないとのことだがその準備は慣れてほしいとのこと。マリアちゃんはまるで妹に接するように優しく教えてくれる。手を取り腰にも手を回し……ちょっと顔が緩んでいる。 マリアちゃんは私の中で少しだけ警戒レベルを上げる必要があると判断せざる得ない。 つい先日のダンジョンでの戦闘でレベルが上がったからか、多少子供では重たいのでは?といったものもスイスイと運べるマイちゃんに驚く一同。 そして準備が整ったのでワゴンをマリアちゃんが運んでいく。 「今日はマイちゃんも一緒にきてね。入り口で挨拶をして中に入ってから後は入り口の近くで待機して、何となくで良いから給仕の流れを見ていてね」 「はい!」 マリアちゃんがそう話しながらワゴンを押してその部屋を出る。 マイちゃんもゆっくりその後について歩き出す。 他にはメイドさんが二人とも付いてきた。 見た目が幼い7才のニーナちゃんは少し緊張しているようだ。もうひとりのヘレンちゃんは落ち着いている。さっき16才と言っていたからそれなりに長くここにいるのかな? そうこうしている間にマリアちゃんが大きな扉の前で立ち止まる。どうやらここが食堂なのかな? 部屋をノックしてすぐに扉を開ける。 そして中へ入ると「お待たせいたしました」と一礼をするマリアちゃん。 もちろんそれに倣って横の二人もマイちゃんも「お待たせいたしました」と一礼をする。 その後は何事もなく配膳が進む。 マリアちゃんとヘレンちゃん、そして危なっかしくもニーナちゃんが配膳していくのを見守った。マイちゃんも真剣にその様子を見つめていた。 配膳も終わり当主であるモーモス・ポボス伯爵、その横にはおそらく奥様、そして男女のお子様が静かに食事する様を見届ける。マリアちゃんは伯爵とその夫人の後ろへ、残りの二人はお子様の方へ気を配っていた。 飲み物が少なくなると一声かけて注いだりもしていたがそれほど忙しくは無いようだ。 マイちゃんもその様子を見ているが少し眠そうだ。たまにこっくりしてしまいそうになる。何もすることないから眠くなっちゃうよね。 そして食事が終わると開いた食器類をかたずける。 マイちゃんも呼ばれてお片付けのお手伝い。綺麗にワゴンに乗せ「それでは失礼いたします」という声と共に部屋から退出する。マイちゃんもニーナちゃんもここでホッと胸を撫でおろす。 その様子をマリアちゃんとヘレンちゃんがみて「ふふふ」と微笑んでいた。実に良い風景がそこにあった。私は思わず『浄化』が漏れ出ちゃうのをこらえてしまう。危ない危ない。 それから一度最初の部屋へと戻ると、アシスに食事の終わりを報告すると、見習い執事二人を連れて部屋を後にしていた。 それを見送った後、ワゴンを厨房まで持っていくと、料理人の二人に「お疲れ様」と声をかけられる。後は料理人の二人が食器を洗ったり片づけたりをするようだ。 そしていよいよ掃除のお時間です。 まずは今日の掃除するお部屋へ。 「マイちゃんには今日はこの部屋のお掃除を手伝ってもらおうかな?」 マリアちゃんに連れられて部屋へと入る。他の二人は別々の部屋へと入っていったので各自掃除を始めるのであろう。 「ここは応接室の一つよ。まずはここでの掃除の仕方に慣れてもらうわね」 「はい!」 「まずは掃き掃除からの拭き掃除なんだけど……そのモップ使うのよね?」 マリアちゃんのその声に首をかしげるマイちゃん。 そして首を回して私を一瞬見る。 「これは、ママなので今日は使わないです」 「あら、そうなのね」 少し不思議そうにしていたマリアもすぐに部屋の掃除の説明に入る。 室内には高価なものもあるから丁寧に。上から下にパタパタと小さなモップのようなもので埃を叩き落とす。床はモップでからぶきした後に濡らして拭き掃除。そんな感じで説明が続く。 身体能力の上がったマイちゃんは軽々と掃除をこなしていく。そしてマリアちゃんの目を盗んでは私が『浄化』で周りを綺麗にしてゆく。普通に掃除してもいいけど少しのお手伝いぐらいいいよね。 マリアちゃんが目を離したすきに綺麗になっていく室内。 「マイちゃん?」 「は、はい!」 私が『浄化』を発動させたところでマリアちゃんの声がかかり、思わずマイちゃんも声が裏返りそうになっていた。 「マイちゃんって魔法使える?」 「少し、だけ……」 「冒険者ギルドから強い冒険者でもあるって聞いてはいたけど、っていうか拭いていないはずのところも綺麗になりすぎです……まるで浄化魔法を使ったようにね」 「そう、ですね」 マイちゃんが変な汗をかいている。なんとかその汗を回収できないかな?もったいない! 『マイちゃん。マリアちゃんなら大丈夫じゃないかな?』 「う、うん」 「今マイちゃん以外の声が聞こえたような……」 なんとなく私は可愛い女の子に悪い子はいないという直感を信じて話し始める。 『はじめまして。マイちゃんのママです』 「ひあっ!」 私がマイちゃんの背中の鞘から抜け出るとフワフワと浮かびながら挨拶をする。マリアちゃんは驚いて尻餅をついて……セクシーな黒でした!ありがとうございます! それから『浄化』が少しだけ使えることを教えると、適当に室内を『浄化』で綺麗にした。そして余った時間で浄化についてのこの世界での重要性をマリアちゃんが説明してくれた。 この世界ではもちろん魔物との戦いもあり冒険者も羨望の眼差しを受けている。だが一般人にとっては生活魔法の方が重要で特に浄化魔法は貴重で重宝されるという。 裏口の入り口の浄化の魔道具についても高価なうえ、動力は大魔石。そして空になったものに籠めるのは浄化魔法のため非常に高価らしい。それこそ部屋に設置して定期的に動かすならメイドをその部屋のためだけに2~3人雇えるほどらしい…… たしかにそれでは入り口に置く程度になるか。 『でもなんでそんなに高額になっちゃうの?』 「浄化魔法を使える人はこの街には2~3人しかいません。王都でも10名程度とか……いずれも豪邸に住んで好きな時に魔石に浄化を籠めてのんびり暮らしてるとか……」 なるほどね。そうか、浄化は貴重なのか…… 『マイちゃん。浄化魔法を魔石に籠める仕事したら何もしなくても生活できるって』 「うーん、マイ、ママと一緒に冒険がしたい!」 『そうだよね!ママもマイちゃんと一緒に冒険するー!』 「ママー」 マイちゃんが可愛い笑顔で抱き着いてくるので『影の手』で抱きしめ頭を撫でる。 その光景にマリアちゃんがまた驚いている。 こうしてマリアちゃん公認で今日予定していた部屋を回って浄化しまくる。一応ニーナちゃんとヘレンちゃんには内緒だ。二人が部屋を掃除している間に他の部屋を回って綺麗にしていったのだ。 こうして2~3日分の仕事を終わらせてしまった私たちは、勝手口からのあの大きな部屋の隣にある使用人の休憩室でゆっくりとティータイムを楽しんだ。 私はマイちゃんの背中の鞘に戻り三人の楽しいひと時を眺めていた。 楽しいティータイムを眺めながら三人のステータスを覗く。久しぶりにマイちゃん以外のハレンチな姿が視えた。おい、変態女神……ありがとうございます! ステータスについては乙女の秘密なので内緒です!
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