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02 私を飼って!
私は由良ちゃん(仮)にアピールを始めた。
『さっき私を使ってくれたから私スキル3つも覚えたんだよね。私……まだまだ強くなれるかも……』
「3つ!スキル3つ!」
食いつきがいい。やはりスキルが……魔法がある世界なんだ!
『そう。3つ。痛覚耐性でゴリゴリされても痛くなくなっちゃったよ』
「あっ!……ごめんなさい」
ペコリと下げる本当に良い子!
『大丈夫大丈夫!あっそうだ名前!お名前教えてくれる?』
「なまえ……マイ……」
ひゃっほー!由良ちゃんじゃなかったー!でも可愛い名前!マイちゃーん!テンションは上がり小躍りしたくなる。動けないけど。
『マイちゃんか。とっても素敵な名前だね!』
「うん。このなまえ、すき!」
『うん良い笑顔!よし続けようか。後ね視界確保ってスキルでやっと見えるようになったの。そして今、マイちゃんの可愛い姿がバッチリ見えてるよ!ほんと可愛いねー』
「か、かわいい?」
照れるマイちゃん。天使降臨!
『ふへへへ。可愛いよー』
「ちょっと、こわい」
『あっごめんごめん!可愛すぎたからお姉ちゃん興奮しちゃって!でももう大丈夫。後ね今話してるのは念話っていうスキルなの』
「ねんわ!」
ちょっと興奮してるっぽいマイちゃん。
『さっきマイちゃんが使ってくれてからこの3つが使えるようになったんだよ?これからもっとすごいの覚えそうじゃない?』
「うん。おぼえそう!」
『私、マイちゃんの専用のモップにしてほしいなー』
「うん。せんよう!」
その言葉に私はステータスを一応確認してみる。
――――――
種族:マイの朽ちかけたモップ
――――――
よし!所有権の移譲成功!でも朽ちたのは変わらな……いや朽ちかけたになってる!このままレベル上げれば朽ちなくなるかも!ってレベル書いてないな……レベルアップとかそういう感じじゃないのかな?まあいいか。
『じゃあ、今度はマイちゃんのこと教えてくれる?』
「うんわかった!きたないモップさん!」
『えっ?』
「え?」
ちょっと呼び名は気になるが今は我慢しよう。そして話を先へ進めよう。そう思って再度聞き出したマイちゃんの個人情報。
戦争孤児として孤児院で育てられたマイちゃん。母親はマイちゃんを生んですぐに他界。父親は戦争に駆り出されて亡くなっている。現在4才で孤児院からこの家に奉公に出されたという。
魔物の存在や魔法やスキルという能力も存在する世界で、絵本には勇者と魔王の戦いのものも多くあると言うが、本当かどうかは分からないという。
うーんこの辺りの設定は『ラブアイドル』とは全く違うね。第一、あれ舞台は地球だしね……異世界版『ラブアイドル』かな?じゃあ目指すは『マイちゃんは異世界だってアイドルだもん』計画かな?
そしてもうちょっとで5才になるという。そうか、5才か……その時は!私が盛大にお祝いしてあげるんだからね!
ちなみに本日初日の奉公で先輩メイドのエレポアって人に言われてこの部屋の掃除を命じられたマイちゃん。ロッカーにあると言われたモップ、つまり私を見つけて掃除を始め今に至ると……ってかここボロボロの部屋だよね?
普段掃除されてない場所じゃない?
これはあれか?嫌がらせか?
『マ、マイちゃん。先輩メイド、エレポアさんはどんな人?』
「うーん。こわい人……さっさといきなっ!ていわれた……もどりたくない……」
そうかそうか。やっぱりいじめっぽいな……よし!私が何とかしなきゃね!
『マイちゃん!とりあえず掃除、もうちょっと頑張ってみようか。またレベル上がるかもだから!』
「うんわかった!きたないモップさん!」
ぐっ……やっぱり気になる……
『ねえマイちゃん。その汚いモップさんは止めてくれると嬉しいかな?』
「んーなんてよべばいい?」
『私、ユイコっていうんだけど……ママって呼んで?』
私は『ラブアイドル』で由良ちゃんに呼ばせていたママをチョイスする。
「ユイコ!」
『ママ』
「ユイコねえ」
『ぐっ!ママよ!ほら、言ってみて?』
「おねえちゃん」
『ぐほっ!』
私はそれでもいいかな?とキュンキュンする心を抑え再度チャレンジする。
『マイちゃん。私がママよ!』
「ねえちゃ」
『ほぐわっ!』
私は動いていない心臓が止まりそうになってびびる。『ねえちゃ』はだめだ!それはそれで別の意味で私が駄目になりそうだから……やはりここはママと呼んでもらおうそうしよう。
『マイちゃん。ねえちゃはだめ。ママ死んじゃう。だからママって呼んでくれる?』
「わかった。ママ」
『そうよ!私がママよ!』
「ママ。うざい」
『ひぎっ!』
どこで覚えたのそんな言葉……私はしてない呼吸が止まり死にかけた。そして今の一言は記憶から抹消した。
『そうだね!私がママよ!』
「うん。ママ!」
なんだかんだ言ってもマイちゃんは私を大事そうに胸に抱いた。もう昇天してもいいかな?
『とりあえず、ママで頑張って掃除してみようか!』
「うん!がんばるね」
そしてマイちゃんが私を逆さにして再びゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ……なかなかレベルがあがらないな。っと思っていたら……
『ぴっこぴっこぽっぴぴ~!』
――スキル『浄化』をゲットしました。
レベルアップ!というかこれってレベルアップと呼んで良いのだろうか。レベル表記がないのは困る……こともないのか。やっとレベル〇〇になりました!なんて現実世界ではあまり使わないだろうし。
――――――
『浄化』こころはいつもピュアクリーン♪
――――――
うーん……ほんとなんだこのスキルの相変わらずなパッパラパーな説明文は……これはもうあれだ、パッパラ構文だ!私はこのスキルの説明欄について女神に問い詰めたい気持ちでいっぱいであった。
とりあえず今はその怒りは置いといて……浄化はアクティブスキルか。まあそりゃそうか。常に周りを浄化しまくっててもね。
『マイちゃん!レベルが上がって浄化っての覚えたよ!』
「じょうか!」
『浄化はモップの基本攻撃だよね!』
「こうげき?すごい!」
私を逆さに抱いてクルクル回るマイちゃん。ふふふ楽しいね、楽しいねー。下から覗くマイちゃんの姿もとっても素敵だよ!今日は白なんだね!よし、この勢いで浄化を発動!
発動させた『浄化』の影響でくるくるまわるマイちゃんの周りがみるみる綺麗になっていく。すごい便利。そして脳内に鳴り響くファンファーレ。早すぎだね。
『ぴっこぴっこぽっぴぴ~!』
――スキル『念動力』をゲットしました。
――――――
『念動力』いっつあパワーよ!
――――――
こ、これは!
『あっなんか動ける!マイちゃん!ママ、自分で動けるようになったよ!』
そう言って私はくるりと頭を上げてマイちゃんの周りをくるくる飛んで見せる。
「すごい!」
マイちゃんがキラキラした瞳でこちらを見ている。
「のれる?」
『の、のれる!はず!』
突然のマイちゃんのお願いに、私はごくりと鳴らない喉を鳴らした気になって応えた。
私はマイちゃんが乗りやすいように横になり低い位置に停止する。そしてマイちゃんが可愛い足を上げ私にまたがる……目の前にはマイちゃんの可愛いお尻……ここは……天国ですか?
『ぐえっ』
無理でした。マイちゃんがお尻を下ろした瞬間、床へとペタンと落ちる私。
そんな私をマイちゃんは優しく持ち上げ……ベチーンと床に叩きつけられる。ごめんねマイちゃん!いつかマイちゃんを乗せて飛んでみせるから!
『ごめんねマイちゃん。ママ、頑張るからね!』
「う、うん。ごめんねママ。つい、イラっとして……」
『いいのよいいのよ!』
そう言いながらマイちゃんの周りを逆さまになってまわりながら『浄化』を発動させてゆく。どんどん綺麗になってゆくボロボロの部屋。時折マイちゃんの近くでマイちゃんの白を覗くことも忘れない。
いやちょっとまって?これって魔法だよね……ザワザワモップ的に動かなくて良くない?
『マイちゃん。ちょっと私を持ってくれる?』
「うんいいよ」
私は頭を上にしてマイちゃんの横に止まる。そしてマイちゃんの小さなおててに収まった。
『ちょっとまだ汚い床の方に行ってくれる?』
「うん。ここでいい?」
よし。ここでいいかな。そのまだ掃除されていない汚い床の上で『浄化』を発動。よし!私は思わずガッツポースをした気持ちになった。マイちゃんの居る床がつるつるピカピカになったのだ。
「すごい!ふいてないのにピカピカ!」
『魔法だからね!この調子で汚いところ全部綺麗にしちゃおう!』
「うん!」
マイちゃんの可愛い笑顔を眺めながら『浄化』を発動しまくる。徹底的にこの部屋の床、壁、備品に至るまで全てを綺麗にしていった。
部屋中キラキラピカピカになったのでその綺麗な床に座ったマイちゃんとしばしの休憩。おしゃべりタイムに突入。マイちゃんから聞いた勇者の冒険譚は面白かった。
伝説の勇者は竜を仲間に従えて伝説の聖剣を掲げ、邪悪な魔王を打ち倒すのだとか……私はその話に……ではなくその話をするマイちゃんのキラキラした瞳に見とれていた。そしてそんな楽しいひと時を邪魔する魔王が……
ガチャ!
「ちょっと!何さぼって……あれ?ここ、こんなに綺麗だったかしら……」
これが噂の意地悪な先輩か。その姿は栗色の長い髪で青い瞳、マイちゃんと同じメイド服を着ているがそれなりに育った胸を見せびらかすように空いた胸元と短いスカートががなんとも下品である。
これはマイちゃんの教育上良くない!
「エレポアさんごめんなさい。おったのできゅうけいしてました」
「ふ、ふん!いいご身分ね!掃除はこの部屋だけじゃないのよ!終わったのなら次があるんだから!早くこっちに来なさい!」
そう言うと意地悪メイドは部屋の外へと出ていった。
『マイちゃん。私が動けたりするのは内緒ね。私をちゃんと持ってお掃除する振りしようか』
「わかった」
私の小さく念話で告げると、マイちゃんも小さくうなづいて私を手で抱えた。
「早くきなさ……あれ?その部屋のモップそんなに新しかったかしら?もっとボロボロで臭そうだったと思ったけど……まあいいわ!」
こいつ!やっぱり嫌がらせだっだのか。
「こっから4つ!全部綺麗にしたらあの突き当りの部屋があんたが生活する部屋になるから!それも好きに綺麗にしたらいいわ!ありがたく思いなさい!」
「よ、よっつも……」
「何よ!この屋敷はね、20、そう!20部屋以上あるのよ!このぐらいできないとこのポボス男爵家のメイドは務まらないわ!」
「は、はい。しょうちしました」
絶対無理難題を突き付けていると思われるその意地悪メイド、エレポアはぷりぷりと怒りながら反対側へと帰っていった。まあ、監視されるよりはいいか。
その後、その言い渡された部屋のひとつに入ると、私はマイちゃんに優しく声をかけた。
『じゃあ、ゆっくりと掃除しちゃおうか』
「うん。ママ……おねがいします」
その声に嬉しさのあまり浄化を全力で発揮しようと思ってしまったが、慌ててとめる。すぐに終わればもしかしたらまた見に来た奴に次の仕事を言い渡されるかもしれない。何事もほどほどがいいのだ。
そして私は、マイちゃんにゆっくりと部屋を回ってもらう。
いつ部屋に奴が入ってきてもいいようにゆっくりと回りながら浄化していく。一つ目の部屋は楽しいおしゃべりをしながら1時間ほどかけて室内全部を綺麗にした。
今度は私の番だと私は桃太郎と花咲かじいさんをチョイスして聞かせていく。もちろんオリジナルで桃太郎が倒すのは意地悪メイド鬼、花咲かじいさんのお隣さんには意地悪メイド婆が、それぞれコテンパンにやっつけていく。
マイちゃんは楽しそうに笑顔を見せた。
その部屋の掃除を終えると、マイちゃんが支給された懐中時計を腰のポケットから取り出して時間を確認した。
「ママ、もうすぐおひる。ごはんもらえるからしょくどうにいかなきゃ……」
『そうなんだね、じゃあ、ママは一緒にいったら怒られるよね』
「ママといっしょがいい……」
『ママもマイと一緒がいいな!でも食堂でしょ?ママは多分怒られちゃうからまずはマイちゃんの部屋に行ってみようか』
そして向かった突き当りの部屋。
予想通りの蜘蛛の巣が張ってるようなボロい部屋だった。
私はとりあえずとベットの上に移動して、周りを浄化する。
『よし!ママはここで待ってるから。マイちゃんはご飯ちゃんと食べてきてね。午後からまた一緒に残りをお掃除しちゃいましょ』
「うん!まっててね!」
私はマイちゃんを見送ると、その時見せた笑顔に悶えながら戻ってくるのを待ち続けた。
現在のステータス
――――――
名前:ママ
種族:マイの朽ちかけたモップ
力 5 / 耐 10 / 速 0 / 魔 1
パッシブスキル 『痛覚耐性』『視界確保』『念話』
アクティブスキル 『浄化』『念動力』
――――――
『痛覚耐性』いたくないのよ~、いたいのいたいのてんでいけ~♪
『視界確保』いつでもどこでも、きみのこをとみまもってるよ!
『念話』わたしとおしゃべりしませんか?
『浄化』こころはいつもピュアクリーン♪
『念動力』いっつあパワーよ!
――――――
むか~しむかし、あるところにメイドババアが……
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