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04 夢
なかなか上がらなくなったレベルにやきもきしながらも、結局3日ほどで残りの使用していない部屋の『浄化』で掃除を終わらし、1週間ほど何事もなく使った部屋の掃除などをする程度で穏やかに日々は過ぎていった。
そして二つほどレベルが上がり、新たなスキルをゲットした私。
――――――
『突撃』いっけー!
――――――
アクティブスキルの『突撃』で、どうやら私は一直線に突き進むすべを覚えたようだ。それをマイちゃんに伝えると「とつげき!」と目をキラキラさせていた。そしてあの忌まわしき呪文を言い放った。
「とつげきとねんどうりきで、おそらもとべる?」
「う、うん!多分飛べる!」
私はとっさに言われたマイちゃんの一言に……つい返してしまったのだ。「飛べる!」という安易な返事を……
そして少しだけ上がった力に期待しつつ、こっそりと庭に出る。マイちゃんのすぐ横に停止すると可愛い足を上げてまたがるのを待つ。目の前には可愛いお尻!もう気合は十分だ!私はマイちゃんに合図するように叫ぶのだ!
『突撃』だー!
その瞬間、私は風のような速さで飛んで行く!そう、私は風になったのだ!私に必死にしがみ付き一緒に空を舞う準備をしていたマイちゃんを置いて……
庭の木にぶち当たり深く突き刺さる私……
マイちゃんは起き上がると私の元へ歩いてきて優しく引き抜いてくれビターン!……地面に打ち付けられる私。で、ですよねー。ごめんねマイちゃん。また飛べなかったよ。
「ママごめんなさい。またイラっとしちゃった……」
『いいのよいいのよ!ママ頑張ってもっと強く飛べるようになるから!』
でもマイちゃんにケガがなくて良かった。私の体はあの金属のストッパーでパチンと止めるタイプではなく、どっちかと言うと竹箒のようなタイプのモップだからね。それでもケガしちゃわないように、今後は細心の注意を払おう。
そしてその日の夜から、私はマイちゃんが寝ている夜に抜け出して空をビュンビュン飛びながら『念動力』と『突撃』のレベルがあがるよう頑張った。というかスキル自体はレベルがあがるのか分からないが……
やるだけやろう!マイちゃんのためだ!
そしてその他にもゆっくり飛んだりと『念動力』の方も鍛えてみた。というか『突撃』は飛行には向かない。少なくともマイちゃんを乗せて使えるスキルではなかったと改めて思い直した。
その日からしばらくの間、男爵家の上空に未確認飛行物体を目撃したという摩訶不思議な噂が飛び交うのはまた別の話。
そしてもう一つ。レベルアップで覚えたのは『棒術』であった。
――――――
『棒術』あなたにふりまわされたい……
――――――
この『棒術』もアクティブスキルだが……検証の結果、マイちゃんに付与するような形で、私を振り回しまるで棒術の達人のような攻撃をできるようになった。なったのだが……これを使うと私の方がしばらく使い物にならなくなる。
ブンブン振り回されると頭がぐらぐらきちゃうし、なんなら私の頭の方を振り回した時に敵?魔物なんかにブチューっとするのかと想像しただけで気絶しそうになった。だからこれを私で使うのは最終手段にしようと思った。
いざという時に私がふらふらだとマイちゃん守れないからね。
でも私を背負ったままなら木の枝だって棒と認識できる程度の長さがあればかなりの使い手レベルで振り回せることも分かった。きっとマイちゃんレベルアップ計画に役立つスキルのはずだ。
こうして着実に?力を付けていっている私。
転生して1週間ちょっと、今日もお空の修行を終えてマイちゃんの隣へと戻る。そして少しだけ眠りにつくのだ。いつもはそのままマイちゃんに寝ぼけた私が起こされるのだが、この日は違っていた……
――――――
真っ白な空間に私は立っていた。
既視感のある見た目。そうだ、私が死んだと思った時に見た空間だ……というか1週間以上ぶりにみた私のスーツの袖……って私の手、こんなにくたびれてたっけ……
『そうよ!あんたガチャイベのためにただでさえ過酷な業務に残業かさねてたじゃない!ほんと……酷いわよ、あんたの顔……』
「うわっ!」
私は突然話しかけられたことにびっくりする。
その声を見ると……幼女!
いやあれか、女神様ってやつか。
「一週間ちょっと前ぶりぐらいでいいんですよね?」
『そうね。中々楽しそうで安心してたけど……』
「あっ!私、終わりですか?あの世界は終わりですか?夢ですか!私もうマイちゃん無しでは生きれ行けません!ってか終わりなら私はまた別の人生を始める感じですか!いやですー!」
『うっとーしいわね!』
私は思わず女神様に縋り付きながらその香りをスーハーしていたが、女神様にペシリと叩かれ倒された。
『ほんとにもー。まああんたを選んで正解だったわ!あとここは神界。あんたもちょっと若くしてあげるわ!まあここの中だけだけどね』
そうしてぱちりと女神が指を鳴らすと、私の手はみるみる小さくなって……
『鏡見る?』
頷く私は女神な出現させた大きな鏡で全身を確認する……なにこれ……その鏡にはあんまり可愛くない幼女が……ん?これって……
『ユイコたん4才』
「ぶふっ!ちょっとやめてよ!私で遊ばないでよ!って声までちょっと幼くなってるし!なんかそれはそれでグッときてしまう自分自身もきもいし!」
『まあいいじゅない……誰も見てないわよ?私以外……』
「あんたが見てるだけで嫌よはずかしい!そもそも自分使って何もする気はないわ!って何言わせんのよ!」
ひとしきりつっこみを入れハアハアしている私を、その女神はニコニコと見ていた。いや違うな。なんかニタニタしている。ちょっと身の危険を感じる……
『以外と可愛いわよゆいこたん……後で舐めさせてね』
「いやー!」
私は本気の危険を感じ頭を抱えうずくまる。
『で、ここに呼んだ理由なんだけど……』
「そうだ!なんで?やっぱ終了?」
『違うわよ!マイのことなんだけどね』
「マイちゃん!そうだ私早く帰りたい!マイちゃんが待ってるの!」
『いいから聞きなさい!』
狼狽える私は女神チョップを受けてまたうずくまる。地味に痛すぎ、というか暫く痛覚耐性で痛み感じてないから余計痛く感じる。
『マイは私の分身みたいなもんなのよ』
「嘘乙いたーーっ!」
女神を指差したら殴られた件……
『もう2万年ぐらいこの世界見てるんだけど……飽きたからカンフル剤的にね。ちょっと出来心で私の分体を生み出して転生させたんだけど……ちょっと神力の注ぎ方に失敗しちゃってね』
「おい!」
『まあ聞きなさいよ。尊さマックスにしたはいいけどそこで尽きちゃったのよ神力が、んで結局孤児の境遇になっちゃったし能力も普通になっちゃったし……』
「なんてひどい仕打ち!あんたは鬼か!」
『んで、仕方ないからあんたを召喚したのよ』
「待て……ちょっと待て……」
そんな理由で私はモップとして召喚されたのか……なんという仕打ち……できればマイちゃんのママとか……いや時系列的にママは無理か……なら幼馴染?時期がちがうからね。妹?逆に助けられる側じゃね?
じゃあ……いいか!
『でっしょー!』
「でっしょーじゃない!何気に心を読むな!まあそのまま別の人生赤ちゃんからやり直すのは正直つらい。あとまあマイちゃん尊いし可愛いし!」
『わかるー』
「ありがとうございます」
『どういたしまして』
私は女神と固く握手を交わした。
そして女神がその手をスリスリと離さない中、嫌悪感を抑えつつ本題へと入った。そう、今までの話は本題ではなかったのだ。
女神様と今後のことを話し出す。
この世界に、そしてマイちゃんに危険が迫ってると……
一応私はマイちゃんの、女神の分体の従者として、その思いの力を貯めてレベルアップすることで新たなスキルを獲得する存在だという。そして次は絶対に『鑑定眼』を獲るようにち強く伝えられた。
その鑑定眼は異世界転生あるあるな便利なスキルであるが、この世界では唯一無二のスキルで女神様の固有スキルだとか。その『鑑定眼』を取得すると女神の目と繋がり全て丸見えお見通しとのことらしい。
他に似たようなスキルだと『鑑定』というのがあるとのことだが、それはどっかの精霊が気に入った人間の子孫に付与する程度だとか。その能力も全く異なるようだ。
『鑑定』は物の名前や人の能力などが分かる程度だが、すべてを見通せるのは『鑑定眼』だけよ!と女神がふんぞり返っていた。
「それにしても精霊様までいる世界なんだね。じゃあ妖精なんかもいるんだよね?」
『いるわよ!でも普通に人間には見えないわ。普通のモップにもね……まああんたは普通ではないけども……』
「へーそう言われると見たいかも」
私はまだ見ぬ妖精たちに思いを巡らせる。
『間違っても先に『妖精視』なんて覚えちゃだめよ?次に『鑑定眼』取らないと本当に死ぬから!』
「えっなんで?次に何かあって私死ぬの?」
『いやマイが、ついでにあんたもだけどね』
「なんでよ!」
なんで天使なマイちゃんが死ぬのか!女神につかみかかって抗議する。私のことはこの際どうでもよい。マイちゃんが死ぬというのは甘受できない!そして掴みかかる私の手は……するりと躱され後ろ抱きにされる私。
気持ちが悪いので首元でスハスハしないでください!
『あんたとマイの魂はもう完全につながってるのよ!呪いって書いてあるでしょ!だからマイが死んだらあんたも朽ちるのよ!』
「呪いって……そういう意味なんだ……」
『そうよ!私の分体を簡単に殺さないでよね!マイが100年ほどで天寿を全うしたらあなたも一緒にここに帰ってこれるから!だから頼むわね!』
「待って、今なんて言った?」
私は今の女神の言葉を理解するのに多少の時間を要した。
『ん?100年ほどで天寿を全う?』
「その後よ!」
『ここに帰ってこれる?』
「そう!今世が終わったら私、ここに帰ってくるの?」
女神がなんでそんなこと聞くの?と言う感じで首を傾げる。
『もちろんそうなるけど?』
「なんでそうなるのよ!」
こんな何もないところでずっと暮らすなんて嫌すぎる。
『マイの従者として一緒に末永く暮らすのよ?私のもとで』
「よろしくお願いします」
私は深く納得して土下座をした。
その後は、絶対にすぐ取らなくてはいけない『鑑定眼』について確認する。
手っ取り早くレベルあげるには?どうしたら良いかと聞いたらとにかくスキルを魔力ぎりぎりまで発動していくのが一番という説明を受けた。そして女神の本当か嘘か分からないアドバイスを聞いた。
『影の手』を全力で動かしながら『念動力』でぐるぐる高速縦回転でもしたら10分ほどでいけそうだと……ほんとかよ……
『経験値結構たまってるし行けるはずよ』
「えっマジ?」
『マジよ』
「すっげー」
あらためて、この幼女が神なのだと実感した。
『じゃあ後はお楽しみタイムね』
「えっ?」
『えっ?』
「いやだめだって」
『いいでしょ?』
「待って?」
『待たない』
「いや!」
『いやじゃない』
「いやーーー!」
――――――
夢から覚めた私は視界を開ける。無事に部屋へと戻ってきたようだ。隣には夢の中にいるマイちゃんの寝顔が……マイちゃん……ママ、穢されちゃった……。私は嫌な記憶を消し去るようにマイちゃんにくっついてまた視界を閉じた。
現在のステータス
――――――
名前:ママ
種族:マイの不朽なモップ
力 15 / 耐 ∞ / 速 30 / 魔 25
パッシブスキル 『痛覚耐性』『視界確保』『念話』『不朽』
アクティブスキル 『浄化』『念動力』『影の手』『突撃』『棒術』
称号 『マイちゃんの眷属(呪)』
――――――
これ以前は過去話参照
『念動力』いっつあパワーよ!
『影の手』おさわりはいいですか?
『不朽』さびないくちないこわれない!
『突撃』いっけー!
『棒術』あなたにふりまわされたい……
――――――
あれは夢!何も、何もなかったのよ!
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