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06 唸れ!高速回転
「マイたん!さっ、ここに来なさい!」
ハゲがマイちゃんをソファーの横に呼ぶので仕方なく近づくマイちゃん。当然ながら警戒して指差された場所より少し距離をとっている。正直近づきたくないよね。分かるよその気持ち。
「どうです!マイア殿!素晴らしいでしょ!」
「そうですなークピード殿!もうこれは……たまりませんな!」
今にも涎を垂らしそうな醜態を見せている二人のハゲ……これは……もう無理かもしれんね……
とりあえず確認しておこうとデブハゲを『鑑定眼』で視る。
思わず吐きそうになった。これはキモイ……スキル『絶倫』ってなんだよ!無駄スキルにもほどがある。こんなばっちいものは一ミリだってマイちゃんには近づけちゃいけない!
――――――
『絶倫』溢れ出る生命は留まることを知らず
――――――
そんなことを考えている間に早速第一ハゲ、この館の主のクピード男爵がそばまでくると、マイちゃんの首を触ろうと手を伸ばしている。
『させるかー!』
思わず『念話』で叫んでしまったがかまうものか!どうせもう逃げ出すしか選択肢はない!そう思って私はその汚い手の前へと割り込んだ。
クピード男爵が私の叫び声と突然あらわれたことに驚き、一瞬手を引っ込めるが再び私を避けてマイちゃんへと手を伸ばしてくる。
バシ!「痛っ」
バシバシ!「痛たた!」
バシバシバシ!バシン!「痛たたたた、なんなんだこれは!」
伸ばした手をどんどん強い力を籠めて叩き落とす。
「なんだというのだ!この……モップ?でいいんだよな?さっきしゃべった気もするが……とにかく!こんなもの早くかたずけろ!」
「そ、それが……それはマイ以外は触れないみたいで……」
おっ、エレポアはバカではないのか。マイちゃんの攻撃ではなく私がやってることを理解していて……だから最近ずっと大人しかったのかもね。
「そんなバカな話があるか!さっさと動けこの無能が!あいたっ!」
さすがにちょっとだけ可愛そうなのでエレポアを罵倒しているその空っぽ頭を叩く。
ぽかぽか叩くと軽くて良い音がした。中が入っていないっぽいから良く響く。私は気分よくリズミカルに叩いていった。
「痛っ!おい何してる!痛たっ!こいつを止めろ!」
ドアの前であっけに取られ口を開けていた護衛と思われる軽鎧を着た男と茶色いローブの男が動き出したので、こちらも臨戦態勢を整えるべくマイちゃんに声をかける。
『マイちゃん!ちょっとそっちの部屋の端に行ってくれる?』
『影の手』で誰もいない部屋の角を指差し安全な場所へと退避させる。もちろん私はタタタと可愛く走りだしたマイちゃんにくっついて部屋の隅までいくと、不安な顔をしているマイちゃんの前に立ちふさがった。
『大丈夫!何があってもマイちゃんはママが守るから!』
その言葉にマイちゃんがコクリと頷いた。よし!見よ!この私の努力の結晶を!
私は今朝、レベルアップのために行った動きを元にした技を再現する。
マイちゃんの前でくるくると高速回転する私の体。護衛の一人がかまわず私に剣を叩きつけるが、それは軽々と弾き飛ばされる。何やらパキンと音がして、どうやら剣にはヒビが入っているようだ。
たったそれだけなのにその護衛の兵士は尻餅をついたままあっけに取られ、動けなくなっていた。
さすが『不朽』な体!これなら十分戦える!そして後ろに控えていたもう一人の護衛が小さな杖を腰から抜くと、なにならブツブツと念仏のように唱えた後、「ファイヤーアロー」と叫んで炎の矢を飛ばしてきた。
『おお!やっぱりあるんだ!』と初めて見る魔法にちょっと興奮する私。
そしてその炎の矢が迫ってくるがそれは私の回転で生み出された風圧により巻き込まれ消えてゆく。負けじとその男も炎の矢を連発してきたので、私は回転を止め『影の手』を発動。思いつきであったがその矢を掴んで……投げ飛ばした。
その男のもとに戻ってきた矢にびっくりしながらも今度は水の膜を作り出し、ジュっと消える炎の矢。私は一応すべての矢を掴んでは投げとしていたが、やっぱりその水の膜により全て消し去られてしまった。残念だ。
そんな時に唐突に聞こえてきたあのファンファーレ……
『ぴっこぴっこぽっぴぴ~!』
――スキル『怪力』をゲットしました。
――――――
『怪力』きんにく!それはまさにちからづよく!
――――――
よし!何か知らんが検証はあとだ。そう思っていたら今度は水の膜を解除した男が両手を上にあげてメラメラと大きな炎の玉を……いやデカすぎない?
「モップ風情が!全て……焼き尽くせ!この俺の『バーニングファイヤー』で!」
「ぎゃー!私の屋敷が!やめろーなんでそんなデカイ炎をつかうんだ!常識ないのかこのバカー!」
ハゲ一号が当然のごとく怒っているのだが、なにやら口元から血を流しているその魔法使いの男はその言葉には耳を貸さず、ついにその炎の大玉が投げつけられた。そして私は再度高速回転!全て蹴散らしてやる!
その結果……天井が激しく燃えた。
ゴウゴウと音を立てて燃え広がる炎。そんなバカな魔法を飛ばした男はその場で倒れ込んだ。魔力切れかな?私もあんな感じでパタリと倒れたのかも……それはマイちゃん泣いちゃうよね。ごめんねマイちゃん。
私はマイちゃんの前で倒れた時のことを思い出し心の中で謝っていた。
「お、おわりだー!もうこの家はおしまいだー!」
そう言いながらハゲ一号は両手を上げながら慌ててドアから走り去っていってしまった。その後をハゲ二号が「待ってよー!」と追いかける。気付けば数人いたはずのメイドたちも執事っぽい男の人もすでにその場には居なかった。
さて、どうしたものか……
私は、とりあえずマイちゃんに『大丈夫マイちゃん?』と確認をとるが「うん!ママかっこよかった!」とお褒めの言葉を頂き有頂天になる。この勢いのままこの屋敷から逃げちゃおう。
『よし!このまま逃げちゃおう!マイちゃんは必ず守るから安心してね!』
「うん。ママ……だいすき!」
『あっ私だめかも』
一瞬意識が飛びそうになったのは回転で酔ったのかそれとも……
私が少し意識を飛ばしそうになっていた時、天井がゴウゴウと燃え上がったせいでシャンデリアが焼け落ちる。ふとその下を見るとそこには尻餅をついたまま動けない護衛の男がいた。
思わず私は『突撃』を発動してそのシャンデリアを粉砕した。
「あ、あ、あ、ありがとうございます!」
やっと生まれたての小鹿のように足をぷるぷるして立ち上がるその男。そこで私はひらめいた。
『私のマイちゃんに刃をむけたことは不問にしてあげる。それはそうとして……剣、折れちゃったよね?』
「は、はい!」
『もうその鞘、いらないよね?』
「は、はい?」
『あとその腰の……良さげなダガーだよね?』
「は……い……」
私は、丁寧に御願いをして折れてしまった長剣の鞘(ベルト等一式付き)と、ダガーと思われるものも一式貰い受けた。『影の手』でガチャガチャとそれらを外した男から受け取る。
『じゃあ、あんたらも逃げた方がいいよ?あの気絶してる魔法使いも連れてさ』
「は、はい!ありがとうございます!」
こうして私との円満な取引を終えた男は、倒れている魔法使いっぽいのをを引きずって部屋から出ていった。さて……最後はあいつか……まあ、ほっとくわけにはいかないよね。
私はくるくると回転しながら勢いをつけ……やつのお尻をひっぱたいた。
パシーーーン!!!
「いぎゃーーーー!」
『惚けてないで!さっさと逃げなさい!』
先ほどからエレポアが天井を見て惚けていたのだ。さすがに可哀そうだから叩き起こしてあげる。彼女もこれで職を失ったわけだし、まあ気付けの一発ということで……
「いったいわね!何すんのよ!」
涙目である。
「あんたの!あんた達のせいで私の人生めちゃくちゃよ!うう……」
『まあまあ。運がなかったということで……』
キッ!とこちらを睨むエレポアだが少し腰が引けている。お尻をさすっているので相当痛かったのだと推測。
「くっ!やっぱりあんた!知性のある魔武具だったのね!」
『知性のある魔武具?』
「自分のことでしょ?なんで知らないよの!」
『いやそんなこと言われても……私、目覚めたの最近だし……』
しかしカッコいい名前!知性のある魔武具!よし記憶した!
「くっ!いいわ!この借りはいつか絶対に返してやるんだから!覚えときなさいよ!うわーん!」
そう言ってエレポアは部屋の外へと走っていってしまった。少しお尻を抑えながら不格好にではあるが……まあちょっとすっきりしたかな?結構良い音出たし。さて……じゃあ私たちもそろそろ逃げなきゃね。
私は部屋の窓をバシンとぶっ叩き破壊する。
『マイちゃん!多分大丈夫だからつかまって!』
そう言って『影の手』をマイちゃんに伸ばす。もちろん護衛の兵士から譲って頂いた長剣の鞘とダガーの一式はきっちりと自分の体(柄)に巻いている。
「いんてりじぇんす!うえぽん!」
『ふへへ。いや~それはまた後でね~?』
持ち上げようとしたマイちゃんは、両手を握りキラキラした瞳でこちらを見つめてくるので思わず興奮してしまうが、そろそろ本気でやばいので気持ちを切り替える。
私は『怪力』により上がったであろう力を試すように、マイちゃんの腰をしっかりと掴みゆっくりと浮かび上がった。
「ふわわぁ~」
マイちゃんの感嘆の声と共に無事浮かび上がる。そしてそのままそろりそろりと窓から外に出る。その様子を丁度外まで出てきたエレポアが口をあんぐりと開けてみている。その近くではハゲた二人が騒いでいた。
『じゃあ行くよ!マイちゃん!』
「うん!」
私はとりあえず遠目に見える賑やかそうな町に向かって飛び始め、少しだけ進んでから近場に木々が開けた部分を見つける。街へと続く道の脇にある森の中の空間。
『マイちゃん一旦降りようか』
「うん!」
その空間に降りた私たちはホッと息をつく。そして兵士から貰った長剣の鞘の先目掛けて『影の手』で持ったダガーを振りかぶる。意外と簡単にその鞘の先は切断することができた。
その後、ダガーを元の鞘に戻すと、そのダガーの鞘と一体化したベルトをマイちゃんの腰に装着する。サイズ調整のできるタイプだったのが幸いしてその小さな腰に装着されたダガー。ダガーを装着したマイちゃんもとても可愛い。
マイちゃんも腰を浮かせたりクルリと回ったりと上機嫌のようだ。
『よし!マイちゃん。こっちもつけるよ』
「もうひとつ?わーい!」
私は喜ぶマイちゃんに長剣の鞘の部分が背中に来るように斜め掛けして固定した。これで街に出た際は私が美味い事この先が切断された鞘に入れば……大丈夫かな?そんなことを考えていた。
『これから向こうに見える街に行ってみようかと思うけどいいかな?』
「うん!ママといっしょならいくー!」
『ふふふ。ママもマイちゃんとならどこだって飛んでいけるよー!』
「ママー!」
二人ともあの家から解放されたからか変なテンションになって抱き合った。
私とマイちゃん。新たな人生の幕開けだー!
現在のステータス
――――――
名前:ママ
種族:マイの不朽なモップ
力 50 / 耐 ∞ / 速 35 / 魔 30
パッシブスキル 『痛覚耐性』『視界確保』『念話』『不朽』『怪力』
アクティブスキル 『浄化』『念動力』『影の手』『突撃』『棒術』『鑑定眼』
称号 『マイちゃんの眷属(呪)』
――――――
これ以前は過去話参照
『不朽』さびないくちないこわれない!
『突撃』いっけー!
『棒術』あなたにふりまわされたい……
『鑑定眼』ぜ~んぶみちゃうからね♪
『怪力』きんにく!それはまさにちからづよく!
――――――
ふへへへへ。二人旅!始まっちゃった!
『怪力』は力が倍になるっぽいな。これでマイちゃんと一緒に風になれるのだ!
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