08 冒険者ギルド

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08 冒険者ギルド

マイちゃんに背負われたままギルドに入る。 この時間はあまり込み合っていないのか閑散としていた。 「あら?かわいいお客さん」 入り口からすぐの広いエントランスを少し緊張しながら歩くマイちゃんだが、奥のカウンターまでたどり着くと受付のお姉さんなのか、マイちゃんを上から見下ろしていた。 「お嬢ちゃんみたいな可愛い子がこんなところに何の用かな?」 「マイ、ぼうけんしゃになりにきました!」 「そうなんだ」 「とうろくはここですか?」 その女性はまるで子供のおままごとを見ているように「ふふふ」と笑う。ウェーブのかかった赤いセミロングの髪と短くラフな黒いウェアの上に赤い軽鎧を着込んでいる。腕は良く閉まっていて鍛えられた筋肉が見える。 これは、異世界あるあるな受付が元凄腕な冒険者的な奴か! 「私がここの受付であってるわよ、可愛いお嬢ちゃん」 「じゃあとうろくおねがいします!」 「じゃあ今度、お父さんかお母さんと一緒にくるといいわ」 「マイ、おとうさんもおかあさんもいないもん……」 お姉さんが少し困った顔になってしまう。マイちゃんの落ち込んでる顔は困っちゃうよね。分かる! 『マイちゃん、大丈夫よ。ママがいるから』 私の耳元の『念話』に少し首を回して私を見るマイちゃん。ちょっと泣いてるじゃん!このお姉さんには後でお仕置きが必要なのでは? 「ご、ごめんね。マイちゃん、でいいんだよね?私はイーリス。よろしくね」 「うん。よろしくイーリスさん」 あたふたとするそのイーリスという女性。 「マイちゃんはどこから来たの?」 「うーんと、あっちかな?」 「あっち?」 方向を確認しながら館のあった街の方を指差すマイちゃん。多分あってる。やはりマイちゃん天才なのでは? 「クピードだんしゃくのところでメイドのしごとしてたの」 「ああ、あのハゲの」 イーリスが「ハゲの」というところでマイちゃんがちっちゃな両手で口元を押さえて「ぷぷぷ」と笑う。そうか、あのハゲ男爵は名の知れた存在だったのか。 「れいぞくされそうになったのでにげてきたの」 「なんですって!」 マイちゃんの言葉にイーリスが叫ぶのでマイちゃんが小さく悲鳴を上げる。私は思わず鞘から飛び出て叩きのめすところだった…… 「ご、ごめんねマイちゃん。びっくりしちゃったよね。でも大丈夫だったの?」 「うん、もやしたから!」 「も、もや……まあ、大丈夫だったならいいけど。でも後で私もあのハゲ2~3回しばいとくね!」 「う、うん」 イーリスのこめかみがヒクヒクしている。こいつ……中々いい奴なのでは! 「じゃあ、とりあえず私がママになってあげるから、今日から私と一緒の部屋に住も?」 「えっ?」 『えっ?』 思わず『念話』出た。 「ん?」 一瞬変な顔をするイーリス。『念話』がバレた? 「とりあえず、私がマイちゃんのママになってあげるから安心してね。今日からお姉さんと一緒に暮らそ?」 「ご、ごめんなさい。ママはもういるので」 幸い私の『念話』はスルーされたようだがいきなりのママ宣言。やっぱりこいつは敵かもしれないということが分かった。まあ当然のごとくマイちゃんは私のだ!マイちゃんもちゃんとお断りしている。 そしてそんなマイちゃんが首を回し私を見て笑顔を見せている。よし、今夜はごちそうだ!猪でも狩らなきゃ! 「ママは、いるの?」 「うん!ママ!」 そしてマイちゃんが後ろに手を回して私をキュっと握るのでゆっくり鞘から抜け出る私。そうよ!私がマイちゃんのママよ!ママなのよ!心の底から喜びを表現しようと『浄化』を使う。 マイちゃんの回りがキラキラ煌めき周りを綺麗にしてゆく。 「魔法?」 「ママ!」 「そのモップが?」 「ママ!」 イーリスが目頭を押さえる。 こいつ、泣いてる?私に負けたのが悔しいのか。まあ仕方ないよ、育んだ日々の重みが違うから……もうすでに濃密な私との思い出がマイちゃんのちっちゃな胸には詰まっているからね! 「と、とりあえずだ。冒険者は危ないからしばらく一緒に暮らそ?幸いお金はあるから、一人ぐらい面倒見ても困らないから心配しないで?」 「うーんと、マイはメイドさんのしごとがしたいです。あとみつかるまでぼうけんしゃしたいです!」 私を持った右手を上にあげてしっかりと宣言するマイちゃん。その成長した姿に思わず私も涙が……モップだから流れないけどね。 「メイドの仕事か……すぐには見つからないかも。でもその間なら面倒見るから冒険者の仕事はしなくていいのよ?危ないからね」 「マイ、つよいよ?」 イーリスがまた「ふふふ」と笑う。 これは信じてないな?まあそうだろうね。と、ここで私は忘れ切っていた『鑑定眼』でイーリスを視る。 ―――――― 名前:イーリス 種族:鬼人 力 820 / 耐 1280 / 速 460 / 魔 50 パッシブスキル 『肉体強化』『怪力』 アクティブスキル 『破斬』 称号 『赤鬼(せっき)』 ―――――― おお。私はそのステータスに少しだけ驚く。やっぱり受付は強者のテンプレでした。ってか鬼人か……しかも称号持ち。『破斬』ってなんだ? ―――――― 『破斬』切ったものを破裂させる一撃を放つ ―――――― なんかヤバイ。でもまあ…… 『マイちゃん、なんならかかって来ていいよおばさんって言ってみて』 私の言葉に小さくうなずくマイちゃん。まあ冒険者登録してもらわないことには始まらないからね。イーリスに養ってもらうというのも悪くはないけど……マイちゃんのママは私なのだからそれは却下だ! 「なんならかかってきていいよ、おばさん……」 マイちゃん。演技の才能もバッチリだね。イーリスが驚きすぎて顎外れそうなぐらい口が開いてる。 「ぼ、冒険者に憧れるってのも分かるよ?でも本当に危険なんだよ?」 「だいじょうぶ。おはさん」 あっ泣いた。マイちゃんの再度のおばさん発言にイーリスは顔を手で覆って「おおお」と肩を震わせていた。ちょっと可哀そうかもしれんと思わないこともない…… 「サブマス!こんなガキに何やってんだよ!なんなら変わりに俺がこの生意気な嬢ちゃんしばいてやろうか?」 「あ”黙ってろよこのクソ野郎!」 突然後ろから声を掛けられたが、そのちょっとマッチョな男の発言は、まさに鬼のような表情で怒気を放っているイーリスにより撃沈していた。この世界では怒気だけで人を気絶させれるようだ。 ……というかイーリスはサブマス、つまり副ギルド長ってやつなのか。 「マイちゃん。じゃあちょっとお姉さん(・・・・)がテストしてあげるからね。裏の運動場にいきましょうね」 「う、うん」 ちょっとだけ怖い顔が残っているイーリスがお姉さんを強調してマイちゃんに話しかける。だがどうやらテストはしてくれるようなので、このまま実力を示せば登録は完了するだろう。まあ実力を示すのは私だが…… 「じゃあこっちよ」 「はーい」 「おい、ヘック!こっちは頼む!」 「は、はい!」 マイちゃんはイーリスの後ろを付いて歩き出す。受付の仕事を振られたヘックと呼ばれた男は直立不動で返事を返していた。 『マイちゃん。私を使う時は足(柄)の方を使ってね』 「うん」 私のお願いにマイちゃんが小さく返事をして頷いた。女性とは言えブチューっとはしたくないからね。相手のステータスの方が圧倒的に上だけど、まさか『破斬』は使ってこないだろうし…… とりあえず『棒術』あるし、いざとなれば『念動力』や『影の手』、『突撃』とかを使えばなんとかなりそうかな?結構初見殺しなとこあるしね。 「よし、じゃあ始めようね。私はこれを使うからマイちゃんも好きなの選んだら、何時でも私に打ち込んできていいからね」 ギルドの裏口から外に出るとそこには広い運動場となっていた。その出入口に設置してある木箱から木剣を手に取るとスタスタと中央まで歩いていくイーリス。もちろんマイちゃんは何も持たずに中央へ歩き出す。 「そのモップを使うの?」 「うん!」 「そう。じゃあやっぱりマイちゃんが今さっき聞いた噂の『モップ使いのお嬢ちゃん』ってことかな?」 「そうかも」 そしてマイちゃんが私を握ってタタタと走り出す。 「えい!」 「おっ!」 マイちゃんの掛け声と共に私の体(柄)が叩きつけられる。それを軽く木剣で受け止められるが、すぐに私はマイちゃんの手によりくるりと回転。再び私の体(柄)がイールスの木剣を下から弾く。 そしてそのまま円を描くようにして、イーリスの弾かれた木剣から遠い方の腰をバシンと……それは木剣で受け止められた。すごいね。人間の動きじゃない。まあ鬼人だけど。だがその顔はやばいよ?驚きで口が開きすぎている。 「ちょっとまって?マイちゃんって実は天使族か何かで見た目より結構年が……」 「きょう5さいになったの!」 マイちゃんがおめでたい掛け声と共にもう一度私を上から叩きつける! 「5さいったーい!」 イーリスの脳天にバシンと叩きつけられた私。イーリスは頭を押さえしゃがみこむ。ありゃ痛いわ。惚けていたところに直撃だもんね…… 「ご、ごめんなさい」 「い、いや……大丈夫……」 頭をすりすりするイーリスだったが顔はまだ痛みで歪んでいる。 「というか、今日で5才?誕生日なの?」 「うん。ママにもさっきおいわい(・・・・)してもらったの!」 私に抱き着き頬を摺り寄せるマイちゃん。うん好き! そしてまた目頭を押さえるイーリス。 「マイちゃんが強いのはわかったわ。モップの扱いもすごくいい。モップの先も使えば半テンポ早くなってもっと良くなると思うけど……」 「ママのあたまでバーンってしたらママもいやだって……」 「そういう……ことか……」 ついに木剣を落とし顔を両手で覆うイーリス。マイちゃんに負けたことがそんなに悔しいか。まあそうだよな。称号持ちが5才の女の子に……仕方ないよね?マイちゃんは天使なのだから! 「よし!登録しよう。だけど私もついていくわ!まずは冒険者としてのイロハを教えてあげる!」 「うん!」 数秒後、少しだけ立ち直り、マイちゃんの登録と一緒にくっついてくるという事を宣言したイーリス。やはりまだママの座を奪いに来ているということだろう。鬱陶しいがマイちゃんがOKしてしまったので仕方ない。 ママとして負ける要素は何一つ無いが一応警戒はしよう。 「それじゃあらためてよろしくね。私が新しいママよ!近くに大きな家を買いましょ?そして一緒に暮らすの。お金はあるのよ心配しないで!毎日美味しいご飯もちゃんと食べさせるから!」 「ご、ごめんなさい」 「くっ……」 ついに両手を地面について落ち込むイーリス。悔しそうに両手で地面を叩いている。その落ち込みが回復するのは10分間程度の時間を要した。その間、マイちゃんと楽しいトークで愛を育む私であった。 その後、無事登録してFランク冒険者となったマイちゃん。冒険者カードに刻印されたステータスの低さに驚くイーリスであったが、刻印されないスキルに秘密があるのだろうと納得していたようだった。 こうして、近い将来『モップ戦姫』と呼ばれるマイちゃんの冒険者としての第一歩が始まったのだ。 現在のステータス ―――――― 名前:マイ 種族:人族 力 10 / 耐 10 / 速 15 / 魔 20 称号 『ママの飼い主(呪)』 ―――――― マイちゃんは魔法の才能があるのかな?魔力が高いよね。というか……飼い主て……まあ飼われてるということは永久就職したということで良いんだよね?呪いだし!
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