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トンっと軽く両肩を押されたような気がした 「ぁっ……」 気付いた時には、身体がふわりと浮いているような感覚で、黒いフードを被っていた彼が、さっきよりも歪で嫌な笑みを浮かべているのが見えた 「バイバイ」 ニヤリと笑いながら手を振ってくる彼に手を伸ばすも、全然届かない これ、落ちてるんだ… 手摺りを掴まなきゃって思うのに、手が届かなくて 周りの景色が異様にゆっくり過ぎ去っていくように見えた なのに、なんでだろう さっきから琥太郎(こたろう)の顔ばっかりを思い出す 琥太郎(こたろう)の困ったように眉を下げて笑う笑顔や甘えた顔、疲れてるのに笑ってる顔、オレのことを好きだって言ってくれてる顔、ちょっと照れた顔 全部、オレの大好きな琥太郎(こたろう)の顔 これ、走馬灯ってやつかな オレ、死ぬのかな… それでも、いいかな… 琥太郎(こたろう)が居ないなら、それでも…… 「ひよっ!!」 遠くで琥太郎(こたろう)の声が聞こえたような気がする なんだか凄く懐かしい気がした 2人っきりの時にだけ呼んでくれる名前 琥太郎(こたろう)が甘える時に呼んでくれる言い方 身体が何か生暖かいモノで濡れていくのがわかる 目の前がボーっとして、ちゃんと見えない 誰かに抱き締められているのか、触れてる部分が温かくて落ち着く 知ってる匂い 大好きな人がいつも付けている香水の香り 「……コタ?まぼろ、し…でも、や…と、あえた…」 霞んでいく意識の中、諦めなきゃいけない好きな人を見るなんて、どれだけ未練があるんだろう どれだけ、彼に会いたかったんだろう これだけは、伝えたいな… 幻でも、妄想でも… 「コタ…だ、すき…」 ずっと見ていたいのに、眠たくて仕方ない 頬を撫でて貰える手が気持ち良い ずっと、触って欲しかった大好きな人の手だ 今どきの幻って、好きな人に触れられるんだなぁ、と悠長なことを意識が落ちる直前に思っていた
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