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 高校三年生の冬なんて、別ればかりが舞っているものだと思っていた。  雪が降っている。  ほろりと雲のはしっこが欠けて落ちてきたような、やわらかな結晶がアスファルトに積もる。春が来れば、溶けて消えるのだろう。  それと同じだ。  眠そうなクラスメイトも、声の大きい先生も、くたびれた制服も、かびくさい教室も、しょーもない雑談ばかりの帰り道も、これまで少しずつ積み重なってきたものが春になったら消えてしまう。  今、音もなく舞う雪のように。  そんなことを考えていたから、私はその出会いに驚いてしまった。いや、最初は出会ったことにも気付かなかった。  そこにあったのは四角い雪だるまだったからだ。 「え、なにこれ」  民家の塀と塀に挟まれた狭い道の隅に、四角い雪の固まりが置いてある。  その四角は長方形で、今も降り続けている雪がこんもりと天面に盛り上がっており、遠目には一斤の食パンが置いてあるようにも見えた。  私は風で煽られたマフラーを巻き直しながら食パンに近づく。つんつん、とブーツの爪先で小突いてみると、端のほうに乗っていた雪がぽろりと落ちた。  その内側に茶色が見える。  最初は「食パンの耳みたいだ」と思った。いやでも内側が耳っておかしくない?  そんなことを思った矢先、食パンが揺れた。
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