〈上〉入場直前に大いにもめる新郎新婦

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 その後、結婚式が終わってその場解散した新郎新婦は、公爵邸の寝室にて再び顔を合わせていた。  ちなみにここはトレシアの寝室であり、夫婦で寝室を分けることは結婚前から決めていたことだ。意思疎通どころか互いの存在すら胡乱であった二人だが、この手の譲れない点を挙げれば妙に一致するあたり実はそれなりに気が合うのかもしれない。 「誤解のないようあらかじめ言っておく。俺はお前を愛するつもりなんて毛頭ない」  ずばり言い切った夫にトレシアは胡乱な目を向けた。こいつまさかそれを言うためにわざわざ押しかけてきたのだろうか。  しかしむやみやたらと顔はいい男なので、万が一に備えての忠告だろう。確かにこの顔の隣で妻をやらねばならんのだ。気がついた時にはうっかり惚れていたとかは、まあ、可能性としてはなくもない。そうなれば夫としても迷惑なのだろう。トレシアは興味なさげに頷いた。 「はいはい、そのへんはお互い様だから好きにしてちょうだい。しっかし世界は狭いわね。まさか私とあなたが結婚することになるなんて」 「本当だな。よりにもよってお前が俺の妻になるとは。事前に分かっていたら破談にしてたな」  苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる夫だが、すでにトレシアの興味は彼から逸れていた。それより気になるのは夫が一緒に連れてきた女性である。 「ところで仲睦まじく腕を組んでいるそちらの美女を紹介してくれる気はないの?」  トレシアの指摘に、ずっと夫と腕を組んでいた女性がピクリと小さく反応した。 「ああ、彼女はミカエラ。俺の幼なじみだ」 「…………」  栗毛の美女がぺこりと無言で頭を下げてくる。つられて頭を下げながら、トレシアはまじまじと彼女を見つめた。夫が説明を続ける。 「彼女も一緒にこの屋敷に住んでいる。見ての通り、口が利けなくてね。不便なこともあるだろうけど、俺にとっては大切な幼なじみだ。妻であるお前より、俺は彼女を優先する。それを念頭に置いて丁重に接してくれ」 「あらそう。初めまして、ミカエラさん。よろしくお願いします」  なんだかうるさい夫を無視して、トレシアはミカエラに微笑みかけた。夫の幼なじみだろうがなんだろうが、同居人ということならば仲良くせねば損である。
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