第一章 片想いのプロ

1/20
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ

第一章 片想いのプロ

「俺たち結婚するよ」  痛い。痛い。痛い痛い痛い。いったい何度この痛みを味わえばいいのだろうか。いい加減慣れてしまえばいいのに、どれだけ受けてもこの痛みは変わらない。目には見えなくとも自分の内側が傷ついて、だらだらと血を流しているのがわかる。時間をかけて癒したとしても、彼らは容赦なく何度も傷つけてくるから、奈央(なお)の心は今にも失血死してしまいそうだ。それでもこの傷は決して悟られてはいけないから、奈央はその顔に笑みを張り付けて平静を装うのだ。 「そっかー。おめでとう。よかったね、由紀(ゆき)」 「ありがとう、お姉ちゃん。お姉ちゃんに祝福してもらえるのが一番嬉しい」 「ありがとう、奈央。実は親への報告はまだなんだけど、二人で話して、奈央に最初に報告しようって決めてたんだ。入籍と式は一年後くらいになると思う」 「私が最初なんだ? それはありがとう。親も反対しないから大丈夫だよ。本当におめでとう。結婚式楽しみにしてるね」  あー、醜い。なんて醜いのだろうか。こんなにもかわいくて愛しい妹に嫉妬しているだなんて、恥以外の何物でもない。妹の恋人に横恋慕しているだなんて本当に愚劣極まりない。心から祝福してやれない自分が本当に大嫌いだ。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!