30.リーザ、月の下でエドワードと2人きり。

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30.リーザ、月の下でエドワードと2人きり。

「はい、こちらもどうぞお召し上がりください」 私が顔を挙げると、肉や野菜をバランスよくのせた皿を出しながら微笑むエドワード様がいた。 「実は先程レオ様に、母上はケーキだけを食べているのが気になると思いますがそのままにしてあげてくださいと言われたんですけどね」 エドワード様に言われて少し照れてしまった。 今、エドワード様の差し出した皿に乗っている鴨肉も生野菜も苦手だから、レオが気を遣ったのだろう。 「あ、ありがとうございます」 私は嫌いなもので腹を埋めるよりも、ケーキを食べたいという気持ちを抑えながら皿を受け取った。 「将来のお嫁さんの栄養バランスに気を遣ってみました」 エドワード様がにこやかに言うので、一気に食欲が湧いた。 私は今までレオの察してくれる力にかなり甘えてきたようだ。 声に出して、自分の心のウチを話す大切さをエドワード様は教えてくれる。 「それを食べたら、バルコニー出て踊りませんか? さっき、レオ様と踊っているのを拝見してとても優雅で、僕もリーザ様と踊りたくなりました」 エドワード様からダンスに誘われてしまった。 レオからやめておいた方が良いと言われているが、彼と踊ってみたいと思う気持ちを抑えられない。 フロアーではなく、バルコニーに出て2人きりで踊るなんてすごくロマンチックだ。 きっと月だけが私たちを見ているみたいな状況に違いない。 「もちろんです」 私は笑顔でエドワード様に返事をした。 私は、本当に生野菜が苦手だ。 まるで草食動物になったような気分になる。 それでも、ときめきと共に苦手な鴨肉と共に口の中に食事を放り込んだ。 よし、これからロマンチックタイムだ。 「少し寒いですね。すみません、これを着てください」 エドワード様が私にジャケットをかけてくる。 「いや、私は丈夫なんで大丈夫です。むしろ寒いくらいが丁度良いです。それより踊りましょう」 私はエドワード様にジャケットを返した。 温室育ちのエドワード様よりも、雨の日も風の日も晒され生きてきた私の方が強い。 「それでは、お手をどうぞ」 私はエドワード様の手を取り、会場の中から漏れてくる音楽に乗って踊り出した。 にしても、曇り空で月も星も見えない。 いや、むしろこれはこれで月や星さえ見えない中2人だけの世界というロマンチックなのかもしれない。 「すみません。俺が間違ってました。」 急にエドワード様がダンスを止めてきた。 「何かありました?」 私はとても良い気分になってたので疑問に思った。 「足、紫じゃないですか、打撲! 私、もしかして全ステップで足を踏みましたか?」 私はエドワード様の靴を脱がせながら驚愕して思わず叫んでしまった。 「はい、でも全ステップで足を踏めるというのは凄いことだと思います。自信を持ってください」 エドワード様が私を勇気づけるように言ってくる。 痛みで頭が回ってないのかもしれない、何について自信を持てば良いのか分からなかった。 「私たちレオの言うこと聞けばよかったですね。そういえば、レオがアーデン侯爵令嬢のことエレナって呼び捨てにしてました。エレナに私を殺させないって⋯⋯」 私は思わず、本日の衝撃レオが8歳上の怖いお姉様を呼び捨てにしたエピソードを話した。 「それすごいですね。アーデン侯爵令嬢に呼び捨て許可されているのなんて皇帝陛下と、彼女の両親くらいですよ」 エドワード様は本当に驚いたようで目を丸くして言ってくる。 「それじゃレオを信じてみようかな、命を狙われてないと思うと心が軽くなりますね。」 私は彼に微笑みながら言った。 「レオ様、聡明でしっかりした方ですよね。実は、話していて彼の中の人は35歳くらいのやんごとなき方なのではないかと思ってしまいました」 エドワード様が笑いながら私に言ってくる。 「私は32歳くらいだと思ってました。でも、エドワード様の言うとおり一連の彼の気遣いや動線を見ていると35歳説の方が正しいかもしれません」 私は本来なら自分の身内を褒められたら謙遜すべきだと分かっていたが、正直に彼はすごいと誉めた。 なんだかエドワード様の前だとこうした方が良いと言うより、感じたことをそのまま言ってしまうのだ。 「最近、帝国内はレオ様の話題で持ちきりですよね。エスパルでも2歳から天才児と有名で、既に幹部候補だったそうですね。俺が2歳の頃なんて、何1つ達成してません」 彼が楽しそうに話してくる。 帝国でも既にエスパル時代のレオの話が回っているようだ。 それもそうだ、今では帝国の要職の4分の1がエスパル出身者だ。 「歩き始めたり、話し始めたりしていたんじゃないですか、十分色々なことを達成してますよ」 私はレオの成長を思い出しながら言った。 彼は確かに成長が早かった、私が話して欲しいと願った生後5ヶ月には必死に話そうとしていた。 舌も成長しきってない時から、私に言葉を伝えようとしていた。 私を助けようと急いで大人になろうと頑張ってくれてたのではないだろうか。 それに甘え、優秀過ぎて何を話したら良いかと遠ざけた私はどうしようもない。 私は最近レオのことを考えると涙が出そうになってしまうので話題を変えた。 「それにしても、私たち最初から両思いで良いのでしょうか?」 私は帝国に来て早々に理想の結婚相手に会い、プロポーズも成功してしまったので幸せすぎて不安を感じていた。 「初対面の印象は最悪、それでもなぜだか惹かれ合う2人とかの方が良かったですか?残念ですが、初対面で一目惚れして、中身を知ってさらに惚れまくってますよ」 エドワード様が紫色の足に靴下と靴を履きながら言ってくる。 そういえば、なんの処置も痛みが飛ぶおまじないもしてあげず打撲の酷さに悲鳴をあげて終わってしまった。 レオのように気が利く人間になりたい。 「でも、そろそろライバル役が出てきませんか? エドワード様は結婚適齢期だし、同じく適齢期の貴族令嬢を紹介されたりするのでは?」 私は、彼が私に惚れていると分かっててわざと不安そうに言ってみた。 「残念ながら、帝国で1番足を引っ張っている領地の領主です。うちに嫁に来るくらいなら、監獄にぶち込まれた方が良いという令嬢ばかりだと思います」 エドワード様が言った言葉に思わずガッツポーズした。 「やったー! 私が独走しても良いのですね。リース子爵領ってどんなところなのですか?」 私は嬉しくて、思わず彼の領地について質問した。 「隣国3国と隣接するくらい縦に長く広いのですが、首都と違ってかなり田舎です。3分の1は森でカブトムシとかクワガタムシが生息してたりしますよ」 エドワード様が身振り手振りで説明してくれる。 「カブトムシとクワガタムシ好きです。私はよく顔にたくさん乗っけて戦わせたりしていました。顔に乗っけると間近で真剣勝負が見られて本当に楽しいですよ」 私は子供の頃の唯一楽しかった思い出をエドワード様に話した。 「それやったことないです。植物園でやったら流行りますかね?」 エドワード様は常に領地のことを考えているようで私に尋ねてきた。 彼のこの真面目さが好きだ、彼の努力が報われてくれれば良いと願ってしまう。 「やめた方が良いかもしれません。私の中で流行ってただけで、周りは引いてました⋯⋯」 私が言うとエドワード様はなるほどと頷いた。
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