21.レオ、兄の偉大さを知る。

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21.レオ、兄の偉大さを知る。

僕、レオ・スモアはアーデン侯爵家に養子として迎えられた。 「明日であなたは卒業。ボランティア活動お疲れ様。明日からは私の弟よ。将来はアーデン侯爵家を継いでもらうわ。アーデン侯爵に迎えに行かせるからもう少しの辛抱よ。エレナ・アーデン」 昨日、抜打ちテストだと兄上から渡された封筒を開くと入っていた手紙にはそう書いてあった。 アカデミーの授業を終わると、王子様のようなアーデン侯爵が来ていて大騒ぎになった。 僕の卒業手続きが済んでいて、これからアーデン侯爵邸に向かうと言われたが母上と話をさせて欲しいと申し出た。 母上を待つこと2時間、帰宅した彼女にこれから自分はどうしたいのかと問われた。 初めて母上が僕を見てくれたからだろうか、僕はいつの間にかアーデン侯爵邸の養子になりたいと本音を言っていた。 ♢♢♢ 母上を傷つけてしまったかもしれない、それだけが気がかりになりながらも僕は侯爵邸に来て食べたことないようなご馳走を食べながら僕の父と母になる人と会話をしている。 「エレナが皇后宮を建て替えるという噂を聞いたのだけれど真実みたいなの。そんなことをしたら無駄遣いだと批判を受けるに決まっているわ」 ミリア・アーデン侯爵夫人が悲痛な表情で訴える。 「確かに、あんな少女趣味の皇后宮に住むのは嫌だと言う気持ちはわかる気がするのだけれど⋯⋯」 アーデン侯爵夫人が頭を抱えながら言う。 「皇后宮を建て替えたばかりだし、批判が出るのは避けられないでしょうね。改装程度に済ませるように説得しましょう」 レナード・アーデン侯爵が美しい顔を顰めながらいった。 エレナ・アーデンと言えば昨日、兄上を迎えにきた女の人だ。 洗練された印象の彼女は、これから皇后としてたくさんの流行を作るだろう。 少女趣味のダサい印象を持たれたら、マイナスだ。 おそらく、アラン皇帝陛下とエレナ皇后の政権は長期になる。 長い目で考えれば、彼女のセンスの良さが一目で分かるような建物に建て替えた方が良い。 「お母様、予算が計上されると同じタイミングで侯爵家から寄付をしたらどうでしょうか?」 僕はにこやかな表情を作りながら言った。 アーデン侯爵家は帝国一裕福でノブレス・オブリゲスの精神を持った貴族のお手本のような家紋だと聞いていた。 寄付をすることは、侯爵家の名声をさらに上げることにもつながるだろう。 なぜだか分からないが、侯爵も夫人も僕が実の親のように接することを望んでいると感じた。 だから、お父様、お母様と彼らを呼ぶことにした。 「確かに、そうすれば批判は出ないでしょう。皇后宮の建て替え予算の3倍を寄付しましょうか。理由はどうしましょうか」 おとぎ話に出てくる王子様のようなアーデン侯爵が手を顎に当てながらいった。 本当に全ての仕草が優雅で美しく見惚れてしまう。 「雨が降りそうですね⋯⋯」 僕は窓の外を見ながら言った。 これで、侯爵か夫人が気がついてくれれば良い。 でしゃばらず、静かに過ごすために兄上のように振る舞わねばならない。 ♢♢♢ エスパルで川に掛かる橋の老朽化を兄上が指摘したことがあった。 地下道を作った方が良いと兄上がいったので、僕はわざと天井をガラスにすれば良いと言った。 そうすれば、兄上は水圧に強いガラスがヴィラン公爵邸に使われていることに言及すると思ったからだ。 知るはずのない公爵邸のガラスのことまで知っている兄上の情報力を母上に気がついて欲しかった。 しかし、母上は気が付かず、彼の妄言だと片付けていた。 母上が彼を天才だと気がつければ、彼の発言が全て真実だと分かる。 そうすれば、きっと常に気を張っている母上が楽になると思った。 僕は発言を全て政府に監視されていて滅多なことを言えない。 逆に妄言癖のある問題児だと見做されている兄上の発言は自由だ。 だから、いざとなれば彼に従えば安全だと彼女が気がつければ辛くなくなると思った。 川を泳がなくても、他国に渡る手段を兄上は示してくれていたのだ。 母上は彼がシャベルで穴を掘るのでも想像したのかもしれない。 「帝国全体が2週間前豪雨に見舞われて、多大な被害を受けましたわ。その寄付という形を取るのはどうですか?」 アーデン侯爵夫人が言うと侯爵も頷いた。 僕のサインに気がついてくれた彼らにホッとした。 アーデン侯爵夫妻は察しの良い人たちのようだった。 兄上は母上ほど察しの良い人間はいない、流石母上だとよく褒めていた。 しかし、僕には彼女の察しの良さは分からなかった。 僕は3歳の頃、命の危険に晒された。 幼児が皆かかるような高熱に体が動かなく、兄上は学校を休み僕に付き添ってくれると言ってくれた。 しかし、母上は自分が付き添うから兄上には学校に行くようにと行った。 その後、学校から呼び出しがあった。 僕が入学するまでは兄上が教室を飛び出してしまうという保護者からのクレームにより、よくあったという呼び出しだ。 1年近くなかった呼び出しに違和感を感じた。 そして、その日が1年に1回の検診の日だと気がついた。 校医の女医はマラス子爵邸の主治医と不倫関係だった。 僕はこれが動けない僕の命を狙った罠だと気がついた。 「母上、一生のお願いです。側にいてください!」 僕はこれが罠である説明を母上にしようとも考えたが、母上がすぐに理解してくれるかが不安でとにかく側にいて欲しいと頼んだ。 「すぐに戻るからね」 母上はそう言って僕の元を去っていった。 彼女が去ってすぐに、子爵邸の主治医が僕に注射を打ってきた。 「大丈夫、すぐに楽になるよ」 そう言う彼の後ろで第1夫人と第2夫人が笑っていた。 ほうっておけば、2日くらいで下がる幼児がかかる熱に注射など必要ない。 僕は、それが分かっていながらも身動きが取れなくて薄れゆく意識の中で母上と兄上に助けを求めた。 「レオ、ごめんな」 目を開けると兄上が真っ青な顔で僕に語りかけてきた。 僕は自分が死んだと思っていたが、目の前の兄上の方が死にそうな顔をしていて驚いた。 「レオ、元気になったのね。よかった。」 扉を開けて、息を切らして部屋に入ってきた母上が笑顔で言ってきた。 「疲れたから、もう寝る」 兄上は、そういって部屋を出て行った。 僕が元気にしていることに周りの人間が驚愕している。 「熱が高くて記憶が曖昧で⋯⋯」 僕は兄上が自分の能力を隠していることを知っていたので誤魔化した。 毒物を注入されたことも、とりあえず僕がこれから気をつければ良いことだから黙っておいた。 僕は意識を失っている間、何があったかを理解した。 兄上が僕をこの短時間で助けたと言うことだ。 おそらく、僕は毒物を注射器で打たれた。 意識のない僕を見た兄上は、僕の血中の毒素を薄めるため僕の血をできる限り抜いて自分の血を入れた。 だから僕が目を開けた時、彼には貧血症状が見られた。 僕が逆の立場だったら、同じことができただろうか。 注射器に残された毒物を調べ、薬を作り飲ませることが限界だ。 僕は意識がなかったことからも、一刻を争う状況だったのだろう。 僕の方法では助けられない、兄上はリスクを取りながらも最善の方法を取ってくれた。 血液には合う、合わないがあるという。 もし、合わなければ自分が僕を殺してしまうリスクもある。 それでも、自分の体に針を刺して僕を助けてくれた。
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