25.ダンテ、恋愛マスターに倣い初恋の相手を落とそうとする。

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25.ダンテ、恋愛マスターに倣い初恋の相手を落とそうとする。

今日は奇跡のようなことが起こった。 昨日、俺、ダンテ・スモアは帝国のアカデミーに編入し、絶望していた。 帝国のアカデミーには女子がいなかったのだ。 教師も卒業生がやっているらしく、男しかいない。 牢獄のような環境に、昼は母上の芋弁当。 もう、アカデミーは行くのはやめようと思っていた。 「兄上、今日は僕がお弁当を作りました」 レオが相変わらずのレオ味全開で朝から弁当を作っていた。 レオ味とは愛されたいが為にひたすら相手に尽くすいじらしい様のことを言う。 昨晩食べた彼の料理が美味しかったので、俺は弁当を食べたらアカデミーを早退しようと思っていた。 「今日で、アカデミーは卒業よ。さあ、行きましょう。今日からあなたは私の補佐官よ!」 アカデミーに到着するなり、現れた絶世の美女エレナ・アーデン、俺は一目で恋に落ちてしまった。 昨日、自分を最高峰の可愛い女だと言って決して他の女の容姿を褒めない母上が絶世の美女だと言っていた女。 エスパルにいた頃から、帝国の皇帝の婚約者である彼女が絶世の美女だとは聞いていた。 しかし、地位のある女は大したことない芋面でも美女扱いされる。 実際、ヴィラン公爵の娘も絶世の美女と言われていたが芋面だった。 だから、エレナ・アーデンの評判を聞いていても全く興味がなかった。 あの母上が絶賛する美貌を持つ女だと聞いて、彼女に会うまでは帝国で適当に過ごそうと思ってたところだったのだ。 「ダンテもやっぱり特別な人間だったのね。これから皇帝陛下にご挨拶に行くにあたっての注意事項を説明するわね。それにしても今日アカデミーに来るとは思わなかったわ。卒業手続きの後、スモア伯爵邸にあなたを迎えに行く手間が省けた」 馬車の中で彼女は少し言葉を交わしただけで、俺がエスパルでずっと隠してきた能力を見抜いてしまった。 それにしても美しい、この世にこんな美しい人がいて俺をさらいに来るなんて感動だ。 そして、そんな美女が初対面なのに俺を呼び捨てにしてくれて嬉しい。 俺がアカデミーに来ると思わなかったと彼女が言うということは、俺がエスパルの学校を女教師の授業しか受けていないことを知っていそうだ。 エスパルの天才児レオの情報はすぐに手に入っただろう、しかし俺も天才だと彼女は予想していたようだ。 「俺のエレナ。実は弟が弁当を作ったと言ったので登校したのです」 俺が感動のあまり言った言葉に、彼女の目つきが鋭くなった。 「私をそう呼んで良いのは皇帝陛下だけよ。私のことをエレナ様と呼ぶのは許してあげる」 彼女が冷たく言ってくる。 彼女は隙がない女だった。 母上の手記に可愛い私が気を引くテクニックの1つに好意を持って欲しい相手にはわざと隙を作るというのがあった。 実際、エスパルでもそういった女子のテクニックを見てきた。 エレナ様は全くこちらを寄せ付けようとせず、触ろうものなら手ごと切り落とされそうな怖ささえある。 俺の好意を全く必要としていないのに、能力だけを搾取しようとする初恋の彼女にすでに苛立ちを覚えはじめていた。 「私達、臣下は皇帝陛下の理想を実現するために存在するの。彼は全ての帝国民が幸せになるように日々尽くしている。彼は私達と同じ特別な人間。でも、彼自身はそのことに気が付いていない。絶対に気が付かせるようなことを言わないで」 エレナ様が淡々と話しかけてくる。 「エレナ様、俺の好意に気が付きながら、自分の男の理想のため存在しろって酷くないですか。皇帝陛下に自分が特別ではないと思わせたいと思っているのは、自分が特別だと気づいて孤独を感じたからですか。自分の男にはそれを感じさせたくないと、あなたのことが好きな俺に頼んでるんですね。エレナ様は俺に何かしてくれるんですか、何もしてくれない人に俺は何もしませんし俺の発言を勝手に制限なんてさせません」 俺が反抗的に言うと、それまで無表情だった彼女からわずかな動揺が見られた。 流石、母上だ。 彼女は今、俺の能力にのみ興味があり、それ以外の俺自身には無関心だ。 今、俺は母の結婚詐欺の被害者ミゲル状態にある。 母は彼の金銭以外には無関心だった。 そして、彼は金銭のみを搾取されポイ捨てされた。 母の手記に『ミゲルが私を落とす5つの方法』という章があった。 その1つ目を俺は今実行している。 母上は、なぜかミゲル視点で自分をどうすれば落とせるかを考察していたのだ。 そして彼女はいつだって真理に辿り着く能力を持っていると俺は思っていた。 おそらく脳の萎縮により必要なこと以外を忘れ、残ったものが真理。 ミゲルのことは彼女にとってどうでも良い存在だったが、彼女がこれを手記に記したということは必要なことだったからだ。 今、俺は初めて恋をし相手は自分に無関心という中、母上がたどり着いた恋の駆け引きの方法を利用しエレナ様を落とそうとしている。 1つ目の方法は、徹底的に反抗し困らせ相手の心の棲みつくことだ。 この方法はベースに相手が自分を必要としていなければ実行できない。 ミゲルは金銭、俺は能力を必要とされていて、面倒に思われてもエレナ様は俺を遠ざけられない。 彼女の心に棲みついた後、2つ目の方法に移行する予定だ。 「補佐官として私の側にいられるだけではダメなの?」 エレナ様が唐突に少し微笑みながら女を出してきた。 「いや、それで十分です。」 (しまった⋯⋯) 彼女の顔面が強すぎて思わず実行すべきフェーズを一瞬忘れてしまった。 これでは楽勝な男だと思われてしまう。 俺は目標を見失わないように、取り敢えず彼女が夢中な皇帝陛下を咎めることにした。 母上が、最終面接で皇帝陛下のことを口にした途端、エレナ様が殺意を向けてきたと言ったのを思い出したのだ。 「皇帝陛下は帝国民の奴隷ですね。だって、世界一高貴な生まれなのに、帝国民のために尽くす日々を過ごしているんでしょ」 俺が言い放つと、エレナ様は殺し屋のような目で俺を見てきた後うっすらと笑いながら言った。 「思ったよりあなたって賢くないわね。自分が万能な人間だと思ってるのね。私を落とせるとでも? あなたは、その辺の芋女の相手をしているのがちょうど良いわよ」 彼女が冷ややかな笑みを扇子で隠すように言った。 俺の作戦がバレたということだろうか。 恋をした経験がなかったので、母上の手記を頼りにしたが相手が上手すぎたかもしれない。 「その万能感ってどこからくるのかしら。早いところ使えるようになって欲しいから言うけど、完全に勘違いよ。自分にはできないことに気づけることから初めてね」 彼女が小馬鹿にしながら言ってくるのが分かり、腹が立った。 今まで小馬鹿にされることなんて毎日だったが、それは俺がバカのふりをしていたからだ。 俺をバカにしている連中を逆に俺は心の中でバカにしていた。 自分が実際は誰より能力がある人間だと自負していたからだ。 「必要もないのに無償の愛を与え続けてくれる母親と、無条件に俺を慕ってくる話のわかる弟に囲まれてきたからですかね。エレナ様はいずれも縁がなさそうですね。だから、やっと現れた自分の話をわかってくれる皇帝陛下に依存しているだけなんじゃないですか」 俺はエレナ様が挑発して来たので、挑発を仕返した。 本来ならば、1つ目の方法が完了した後にやるべき2つ目の方法だ。 相手の意識を支配できたら、徹底的に嫌われる。 「続けて⋯⋯」 エレナ様は嫌悪の表情も出さず淡々と返してきた。 1つ目の方法がうまくいった確信がないまま、2つ目に移行してしまった。 常に俺を惑わすエレナ様の顔面と戦いながら、全てのフェーズを完了しようと焦っていた。 やはり、恋の駆け引きなどしたことがないからだろうか。 自らを恋愛マスターと呼び、9年もの結婚詐欺を悪びれもせずしてしまう母上の考案した方法は俺向きではないのではないかと疑問を持ちはじめていた。
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