26.ダンテ、ライバルに余裕をかまされる。

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26.ダンテ、ライバルに余裕をかまされる。

「エレナ様は自分のことを特別と言って普通の人と自分を完全に分けてますよね。後継者になれるような侯爵令嬢としては、帝国で結婚するなら皇帝にでもなる人間じゃないと無理ですよね。婚約寸前の皇帝陛下の兄から彼に乗り換えたのって、兄は普通の人、皇帝陛下が特別だったからですよね。元々2人しか選択肢がない中、1人が当たりで良かったですね。その上、皇帝陛下の方が平民の血も混じってないですしね」 俺は取り敢えず、母上の方法に従うことにした。 俺にとっては天才と呼ばれるレオの方が、母上より理解しやすかった。 でも、レオが現れなければ俺は母上の面白ろだけで生きていかなければならなかった。 話の通じる相手というのは、確かにいた方が良い。 エレナ様は皇帝陛下に出会うまで孤独だった可能性が高い。 そして、彼女は帝国の高位貴族だ。 血筋を気にせず結婚するなんて無理に決まっている。 「アランとダンテの立場が逆なら、私はあなたに夢中だったわ。とでも、言って欲しいのね。人をもっと観察しないと、あなた使い物にならないわ。私のように表情管理の完璧な人間の感情を読みたいなら、視覚ばかりに頼ってはダメ」 彼女の最初の言葉にドキッと心臓が跳ねたが、続く言葉に彼女が俺の能力に対して満足していないのが分かりムカついた。 「あと、レオは明日卒業させて、アーデン侯爵家の後継者にするから」 彼女が続けた言葉に俺は動揺した。 レオを奪われるという危機感と、彼女が血筋を重んじていないことが分かったからだ。 「エレナ様みたいな優しくない女にレオは渡せません」 俺はキッパリと断った。 冗談じゃない、レオを取られたら明日から芋しか食べられない。 「私が女神のように優しいということも分からないのね」 彼女が美しい女神のような顔で言ってくる。 「もし、エレナ様が優しい人なら、今日俺だけでなくレオも連れ出してますよね。レオがエスパルの学校でつまらない授業に耐え続けてたから、耐えられると思って置いてきたんでしょ。エレナ様が優しい人なら、常に我慢し続けているレオの方を先に迎えにきますよね。彼のエスパルでの異常な監視スケジュールを見れば疲れや痛みも感じないくらい限界だと知っているでしょ。結局、能力が非公表な俺が気になって、自分の都合で俺だけ先に連れてきたんですよね」 俺は思ったことを彼女に言った。 レオが人生のほとんどを母上のため我慢してきたことを俺は知っている。 彼女はそれに気がついていたのに、自分の都合を優先している。 彼女に言っていて、自分のことを棚に上げていることに気がついた。 俺は世界一面白い母と同じく天才で尽くしてくれる弟に囲まれ、精神的に追い詰められて必死なエスパルの民の行動を面白がる楽しい生活をしていた。 レオが辛い日々を送っていることなど知っていたが、自分の楽しさを優先していた。 「では、自称優しい兄であるダンテは今まで彼のために何かしてあげたのかしら?」 彼女が語りかけてくる言葉に俺は今までのレオとの日々を一気に思い出していた。 毎日のようにレオが俺や母上のためにひたすらに尽くす姿ばかりが思い浮かぶ。 「レオが死にそうになった時、血を分けました」 俺は彼が3歳の時、救命のため彼の血中毒素を薄めたのを思い出した。 「却下。それは自分のためにしたことでしょ。食べてもらえないお弁当を作った話が聞きたかったのに⋯⋯」 彼女が流し目で言ってくる、相変わらず美しい。 確かに、意識のない瀕死のレオを見て彼がいなくなったら自分の毎日がつまらなくなると思ってした行動だった。 でも、結果レオを救命し、彼は俺に非常に感謝していたのだから彼のための行動にはならないのだろうか。 「今日レオの弁当を食べ損ねたのは、エレナ様が迎えにきたせいでしょ」 彼女に俺は抗議したが、無視された。 「到着したわ。まず、皇帝陛下に挨拶に行くわよ」 皇宮に到着して、俺たちは皇帝の執務室へと向かった。 「アカデミーを1日で卒業するなんて、本当に優秀なんだね。僕のエレナを助けてあげてね」 執務室に入ると皇帝陛下は人払いをした。 さっきまで、無表情だった陛下が突然可愛く笑いながら話しかけてきた。 俺は恋のライバルである皇帝陛下を口撃してやろうと意気込んでいたのに、彼の笑顔にその言葉が吸い取られるようだった。 この笑顔を守りたいと思わせる可愛さがあった。 母上が自分を最高峰の可愛いだと言っていたが、完全に彼に大敗している。 「離島を除いて全てを帝国領にするつもりなんだ、エレナと君は帝国の領土を広める係だよ。帝国民の全ての情報は僕が一括管理して、彼らが幸せになれるよう導いていく予定だ」 皇帝陛下が小首を傾げながら僕に語りかけてくる。 これは、母上の手記の中の『男を可愛さで落とす48の方法』にあった仕草の一つだ。 同じ年の男から使われるとは思わなかった。 皇族としての所作ではない、しかし可愛い。 可愛さで俺の思考をもやらせるつもりだろうか。 今までの彼の実績から彼が特別な人間だと思っていた。 しかし、彼が特別なのはその能力より発想だった。 明らかに彼の考えは自分が神であるような考え方だ。 彼が帝国民の奴隷なんじゃなくて、奴隷は帝国民の方だ。 俺は、昨日アカデミーで皇帝陛下が自分の即位と同時に帝国法を全改訂したと聞いた時から違和感を感じていた。 さらに可笑しいのが、誰もそれに対して違和感を感じることなく受け入れているところだ。 彼もレオのように人を洗脳する人間なのだろう。 レオが学校に入学してすぐに、学校中の人間を母上を誰より敬うよう洗脳した。 母上はレオが天才だから周りの態度が変わったと思っていたようだがそうではない。 普通なら妬みや嫉みが出るはずなのに、全ての人が今まで母上を蔑んでいた記憶を失ったように敬い出した。 「レオ、人を洗脳しているだろう。洗脳すると人の面白さが失われる。周りの人間がつまらなくなるから、やめた方が良い」 俺は今まで面倒で沈黙を保っていたがレオと話さなければと口を開いた。 毎日のように追い詰めらる母上の奇行が見られなくなり、極限状態のエスパルの人間の面白さも失われ興味深かった人間観察がつまらない人形観察になってしまったからだ。 いざ口を開くと自分で周りの人間を口撃できたので楽しめたし、何よりレオは話の理解が完璧で、無条件に俺を慕っていた。 レオは俺に注意されると、すぐに洗脳をやめた。 そして、彼の不思議なところは家族を洗脳しないところだった。 血の繋がりもない第1夫人や第2夫人も家族だと思っているようで、洗脳しなかったがため常に命の狙われた。 彼は母に対してもいつか愛してもらえると期待し、2人の夫人に対してもいつか仲良くなれると期待していた。 レオは明らかに洗脳をしようとして目の前の人間を洗脳するタイプだった。 でも、皇帝陛下は明らかに彼と会ったことない人間まで遠隔洗脳できている。 隣を見ると、うっとりした顔で皇帝陛下の話を聞くエレナ様がいた。 彼女が彼に最も惹かれているのは、特別な能力ではなく、彼の狂気的な考え方だと悟った。 「僕が皇位を退いた後も、全ての帝国民を幸福に導けるシステムを構築する予定なんだ」 当たり前のように皇帝陛下が言っているが、それは未来永劫人々を自分の支配におくと言っているのと同義だ。 俺がエスパル全土の地図を書くと、皇帝陛下は頬に手を当てながら言ってきた。 「東部の7カ国を半年で帝国領にしてきてもらおうと思っていたけど、君が本気になれば4ヶ月でできるかもね」 彼の言葉に一瞬で頭に血がのぼったのが分かった。
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