27.ダンテ、愛人になりたいと考える。

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27.ダンテ、愛人になりたいと考える。

「エスパルの方が楽しかった。帝国はつまらない。俺の幸せを願うならエレナ様をください!」 俺は彼に自分の本音を話した。 俺の能力を見切ったように言う彼だが、俺から見ると彼は得体の知らない存在だ。 彼が他人の幸せを決められると言い切るのだから、それに乗っかることにした。 「エスパルの方がどこが良かったのかな? 僕は君の気持ちを誤解してみたいだから、教えて欲しいんだ」 皇帝陛下が明らかに驚いていながらも、俺の失礼な発言を叱責するのではなく懇願している。 「帝国の人間はみんな人形みたいでつまらないです」 俺は、暗に人を洗脳することをやめろと言いたかった。 「みんな自分や大切な人の為に懸命に頑張っていると思うけれど、君にはそれがつまらなく見られるということだよね。エレナはあげられないんだ、僕たちは想い合っているから」 彼は本当に俺の言葉にショックを受けているようだった。 皇宮からろくに出たこともない癖に自分の考える幸せが絶対だと思っているのだ。 殺し屋のような目で俺を一瞬見たエレナ様も彼の「彼女を渡せない」と言う言葉に胸キュンしたようで、また彼をとろけるような目で見つめている。 「これからも、本当の気持ちを僕にぶつけてくれると嬉しいよ。僕にできることなら何でもするから」 皇帝陛下がじっと俺の目を見つめながら言ってくる。 いくら可愛くても所詮は男だ、エレナ様をくれないなら反抗しまくってやる。 皇帝陛下の執務室を出て、エレナ様のあとをついて個室に入った。 「何考えているのよ。頭沸いてるの、もぐわよ、本当にどうかしてるわ」 2人きりになった途端、俺の頭を鷲掴みにしてものすごい勢いで彼女がシェイクしてきた。 「アランを傷つけないで。彼の感性が理解できないのは全部あなたのせいだから」 彼女が思いっきり俺の頭を掴みながら鬼の形相で言ってきた。 完璧令嬢と呼ばれていた彼女はどこに言ってしまったのか。 俺は彼女が心底、皇帝陛下に惚れているのを理解した。 そして、本命を目指すミゲルポジションよりもジルベールを目指すことにした。 楽しい時だけ一緒にいて感謝だけされて去る彼のポジションは実は一番美味しいのではないだろうか。 「エレナ様が皇帝陛下が好きなことはわかりました。俺を愛人にしてください。俺は自分の欲求が満たされれば、その分は働きます」 プライドの高い俺が精一杯の譲歩をしながら言った。 「これから、貴族会議よ。ついてきなさい」 彼女は先程の怒りの表情から無表情になり、俺の発言をスルーしながら言ってきた。 皇帝陛下の言いなりの気味が悪い貴族会議を終えて家に帰った。 いつもレオのことなど気にも留めてない母上が彼を気にかけていた。 俺はエレナ様から預かった封筒をレオに渡した。 「これ明日のアカデミーのテストだから、レオに渡して」 エレナ様から渡された封筒は、まるで俺がレオに渡す前に覗き見ることを想定しているように封があいていた。 明日、アカデミーを卒業することと、侯爵家の養子になる旨が書かれていた。 俺はレオはこの件を拒否すると確信して、彼に渡した。 彼の行動の根源は全て母上だったからだ。 自分がいなくなれば、母上が芋しか食べない毎日を過ごすに決まっている。 だから、彼は養子の話を絶対に断ると思っていた。 ♢♢♢ 「エスパル以上の独裁国家だよ。形だけの裁判もしないなんて、冤罪だったらどうするの? ロベル侯爵の性犯罪は冤罪の可能性が高いよね?」 母上が俺の方を見ながら語りかけてきた。 彼女はレオが天才だということで引け目を感じなかなか話しかけられないくせに、俺も天才だということは忘れて馬鹿な我が子として話しかけてくる。 貴族会議の時の被害者女性は母上のことだとは気がついていた。 しかしエスパルの平民時代、何百人もの人間を殺し生き残ってきた母上が平和ボケ貴族に好きなようにされるなど微塵も思っていない。 あれは、ロベル侯爵を断罪したいがためにエレナ様がでっち上げたことだ。 母上は俺が彼女を被害者だと誤解していたら嫌だと思って話題にしたのだろう。 「皇帝陛下は独裁者だよ。エスパルのようにならないと良いね」 俺は記憶容量の彼女にもしっかり残るようにエスパルの恐怖と共に、皇帝陛下の独裁を強調した。 やはり、母上は周りの貴族が洗脳されている中でも洗脳されていなかった。 彼女は記憶容量が極端に小さいにも関わらず、生き残りたい気持ちが強く自分に必要と感じた違和感は絶対に捨てない。 おそらくレオや俺目当てで、母上を要職に起用したのだろう。 でも、母上を普通の人と舐められるのはムカつく。 普通だと見下した相手に、ギャフンされれば良い。 ♢♢♢ 「アーデン侯爵夫妻を洗脳をしたわ。いついかなる時もレオを誰より大切にするように⋯⋯」 エレナ様と7カ国を回る旅行がスタートするとワクワクしながら2人きりの馬車に乗り込んだ途端、彼女が言ってきた。 彼女はレオと同じで洗脳をする人間だということだ。 「自分の親を洗脳するなんて、エグいですね。だから何ですか? 俺には関係のない話です」 俺は彼女がレオを欲しがる理由がわかっていて、突っぱねた。 俺が周りの人間を面白がりながら、楽しく過ごせたのはレオがいたからだ。 俺の話を完全に理解する天才の彼がいたから、いつも精神に余裕があった。 彼女がわざわざ俺にレオについて断りを入れてくるのは、俺にとって彼が必要不可欠だと知っているからだ。 「皇宮に行けば皇帝陛下がいて、家に帰れば話の分かる家族も欲しいってわがままではないですか?」 俺は皇帝陛下のことを言いたくはなかったが、同じ天才である彼が既にいるのに他にも欲しがる彼女の自分勝手が許せなかった。 「私はアーデン侯爵家をレオにあげることにしたの。どんな時も彼を優先するし、必要なら侯爵夫妻も切るわ。彼に最適な環境を与えるわ。私も自分が彼を欲しいからってわがままを言ったと反省したのよ。私って美人で優秀な上に自分の行動まで省みることができるの」 エレナ様が淡々と続ける。 彼女がそこまでするほどの価値がレオにあると言うことだ。 俺は自分のほうが彼より能力があると思っていたが、違うのだろうか。 それとも他の部分で彼女は彼を必要としているのかもしれない。 どちらにしろ、俺はレオを失うわけにはいかない。 「だから、レオを寄越せって言いたいんですか。みんな洗脳が好きですね。エレナ様も皇帝陛下に洗脳されているんじゃないんですか?」 俺はレオを渡すのは嫌だし、エレナ様も欲しかったので反抗した。 「そう思うなら、私があなたを愛するように洗脳してみたら?」 エレナ様が挑戦的な目で俺を見ながら言ってきた。 洗脳なんてしたくもないし、正直レオがどうやって一気に周りの人間を洗脳したのかも分からなかった。 「洗脳ではなく、俺が欲しいのは本当の気持ちです。エレナ様は今憧れの女性かもしれないけれど、皇帝陛下を支える皇后になったって歴史に名前は残りませんよ。遠くない未来人々が憧れるのは母上ですよ。悔しくないんですか、馬鹿にしている相手に負けるのは⋯⋯」 彼女の余裕を崩したくて、刺激するようなことを言った。 狂気とも言える考えを持つ皇帝陛下に心底惚れている可能性が高いが、明らかに尽くす女には見えない彼女が彼に対しては臣下のように尽くそうと思っているのに違和感もあった。 彼女が皇帝陛下を愛する気持ちが洗脳によるものならば、その洗脳を彼女を刺激することで解けないか試すことにした。 敵国の貧乏な辺鄙な村の平民から今では帝国の宰相までになっている。 皇帝陛下が作ろうとしている能力があれば取り立てられる世界で、母上の大出世は歴史に残るレベルだ。
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