29.リーザ、レオと踊る。

1/1
34人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ

29.リーザ、レオと踊る。

「建国祭までは首都に留まると言うことで、リース子爵領に戻ってなかったのか。エドワード様と踊りたいなあ」 私は建国祭の開始を告げる優雅な皇帝陛下とエレナ・アーデンのダンスを見ながら呟いた。 「母上、宜しければ僕と踊って頂けませんか?」 気がつくと昨日別れを告げたばかりのレオが私の目の前にいた。 白に銀糸でアーデン侯爵家の家紋の入った礼服を着ていて非常に似合っている。 レオは私に似て可愛い顔をしているのだ、その上、元々高位貴族であったかのような品がある。 私は、彼と話したいとずっと昨晩別れてから思っていた。 でも、人々に囲まれている彼をみて話しかけられなそうとガッカリしていたのだ。 私の気持ちを汲み取ってくれたのか、彼から声を掛けてくれた。 レオの中の人は32歳くらいの紳士なのではないだろうか。 レオが会場に入ってから周りは彼の話題で持ちきりだった。 帝国一の歴史を持つ侯爵家が、親戚でもなんでもない元敵国の男の子を養子に迎えたのだ。 レオがエスパルで有名な天才児であったことは既に広まっていて、これから帝国の能力主義は加速するのではないかと囁かれた。 「もちろんです。踊ったことないけれど大丈夫かな」 私はレオの手を取るとフロアーに出た。 「大丈夫ですよ。僕がリードしますから」 レオは曲に合わせながら私の手を引いてくれる。 彼が踊るのを初めて見たが、いったいどこで習ったのか。 でも、それを言い出すと料理だって習った覚えがないのに初めから非常に上手だった。 「礼服、アーデン侯爵とお揃いだね。すごく似合っている。」 私が、レオに声を掛けると少し照れているのが分かった。 「母上も、ドレスとてもお似合いです。母上、建国祭が終わったら使用人を20名スモア伯爵邸に連れて行きます。」 レオが私に言った言葉に慌てた。 「使用人なんて、命を狙われるかもしれないし、家事は自分でやるから良いよ」 私のことを心配して彼が言ってくれているのは分かるが、他人が家にいる環境が怖くて仕方がない。 「母上に決して危害を加えることなく、生活を楽にしてくれる人間を選びます。僕を信じてください」 レオが真剣に言ってくるので、頷くしかない。 「母上、これからは好きなことをして幸せになってください」 レオが続けて言った言葉に驚いた。 私が廃人臭漂うクリス・エスパルに対して言ったのと同じ内容だったからだ。 そこまで心配をかけていたとは、私はせめてレオに心配をかけない人間にならなければと思った。 「でも、好きなことだけしていたら、アーデン侯爵令嬢に殺されちゃうよ。」 私はレオに心配をかけてはいけないと思った矢先、不安をこぼしてしまった。 「エレナは母上のことが好きですよ。だから殺すことなんてないし、僕がそんなことはさせません」 レオがアーデン侯爵令嬢のことを呼び捨てにしたので驚いてしまった。 それに彼女が私のことを好きって、彼女は好きな子を虐めてしまうタイプなのだろうか。 「あの、でも私しかできないことをしなきゃいけないって」 私はまた不安を零してしまった、自分が今まで知らずにどれだけレオに頼ってきたかが分かる。 「僕から見て母上はいつも自分にしかできないことをしています。首都の川で泳ぎを教えていたのも母上だけでしたよ」 レオが少し思い出し笑いするように言ってきた。 「あれってもしかしてレオは嫌だったんじゃ。レオってすごい綺麗好きだよね」 私はレオがいつだって文句を言わずに従ってくれることに甘えていたことに気がついたので言った。 「実は嫌でした。でも、僕はそのお陰でほとんど病気をしない強い体になった気がします。母上の子だからできた貴重な経験です」 レオが言った言葉に少し驚いた、彼は私に気を遣いいつも耳障りの良い言葉をかけてきていたからだ。 嫌だったという本音を言ってくれたことが嬉しい。 「母上はリース子爵が好きですか? 彼も同じ気持ちのような気がします」 レオの視線の先を辿ると、エドワード様がいた。 レオは人の気持ちを読めるのだろうか、私とエドワード様が両思いだと言っている。 私は自分の押しの強さにエドワード様が折れたとどこかで思っていたので、少し嬉しい。 しかし、今は息子のレオに気持ちを言い当てられて動揺している。 「あの、私の手記を見たなら分かると思うけれど実は離婚しようと思っていて、はい、私はエドワード様が好きです⋯⋯」 私は思わず敬語でレオに返してしまった。 「母上、彼と踊りたい気持ちはわかりますが次回にした方が良いかもしれません。ダンスの家庭教師も送りますから。今日はご馳走もあちらにありますので、甘いものでも食べてほっこりしてください」 レオが笑顔で私に告げてくる。 「え、私、踊れていないかな?」 彼のリードが上手いから、そこそこ形になっていると思っていた。 「実は全てのステップで僕の足を踏んでいます。でも、母上は運動神経も良いし練習すればすぐに踊れるようになると思いますよ」 レオがそう言うと曲が終わって、お辞儀をして去っていった。 ダンスは足を踏んではいけなかったとは思わなかった。 格闘する感覚で踊ってしまったかもしれない。 レオは足を踏まれても痛くなかったのだろうか、また困らせてしまった。 私は彼に言われた通り、料理を食べに行った。 凝ったケーキがたくさんあったので嬉しくなった。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!