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■CASE5 宮田五樹 3時のおやつ
3時に合わせて、俺と統司と菜々花の3人は、レイカの部屋に向かった。
「わざわざ来てくれたのね。2人は?」
「あまり昼ご飯を食べられなかったから、一緒におやつでも食べようかと」
統司は、さきほどメイドに頼んでもらってきたクッキー缶を鞄から取り出す。
もともと菜々花1人でという話だったけど、休むタイミングを見計らうのは難しいだろうと、俺たちも同席することにした。
だが、それ以上、人は呼ばない。
「こ、この2人は友達だから。でも、他の子には食事される姿を見られたくないんだけど」
打ち合わせ通り、菜々花が告げる。
レイカは、構わないというように頷いた。
「じゃあ3人で、おやつにしましょう」
ここにいるのは4人だが、レイカにとって菜々花は、おやつでしかないのかもしれない。
統司と俺は、近くのテーブルでクッキーを口にしながら、和やかな雰囲気を作り出す。
それが偽りだと、気づかれてはならない。
微笑みながら、ベッドに横たわる菜々花に視線を向けた。
「そ、その……私、見るのも……」
「怖がりなのね。目を瞑るといいわ。出来ないのなら私が塞いであげる」
一瞬、怖い意味かと焦ったが、レイカは、ハンカチのようなものを菜々花さんの頭に巻きつけて、目を優しく塞いだ。
「光は入るから、真っ暗ではないはずよ」
「う、うん……」
本当に、レイカが優しい存在のように見えてくる。
寝かせた菜々花の頭を撫で、腕を撫で、落ち着くのを見計らってか、菜々花の手首あたりを指で押さえつけた。
「あ……」
菜々花の体が小さく跳ねる。
よく見えないけれど、あの押さえつけている指の先、菜々花の手首の中に、針が侵入しているのかもしれない。
「最近、うまくなったみたい。ねぇ、痛くないでしょう? すぐに眠くなる」
「う、ん……」
りっかは、大袈裟に痛がっていたけれど、見えているのと見えていないのとでは差が大きい。
こんな風に優しく寝ている間に食事を済ませられたら、何も気づかず、帰ることも出来ただろうか。
気づかないまま心が欠けていくなんて恐ろしいけど、そんなことが行われているとは思えない雰囲気だった。
菜々花が寝息を立て始めると、レイカは菜々花のシャツをまくり上げ、下着を外した。
見てはいけないものだと感じ、直視するのを避け、なんとなく視界に入れる。
レイカは、胸の丸みを優しく左手で支えながら、ハサミに変えた右手で、チョキチョキとそこを切り始めた。
「なっ……」
思わず息を漏らしてしまう。
それに気づいてか、レイカが俺を見た。
「腕以外も、食べるんだな」
俺の動揺を隠すみたいに、統司が呟く。
「昨日の夜も、朝も昼も、男だったでしょう? たまには柔らかいものを口にしたいの。こんな欲求、いままで感じたことなかったけど不思議。なぜか、この胸に惹かれてる」
「楠の影響か」
「そうかもしれない。彼は胸が好きだったのね。その気持ちは私が食べてしまったから、いまはもう、種を吐き出すだけの虫でしかないけれど。この子と、いいつがいになるんじゃないかしら」
嫌味なのか、本気なのか、冗談なのか、まったく判断できなかった。
それくらいレイカは、あやふやな存在で、心が固まり切っていないように思う。
どこからか取り出した替えのパーツを取り付けた後、肉まんでも頬張るみたいに菜々花の胸にかぶりつく。
1つ食べ終えると、2つ目と言わんばかりに、もう片方の乳房に手をかけた。
「……そんなに、食べるのか」
つい、口を挟んでしまう。
「ええ。おいしいもの。やめた方がいいかしら?」
判断を委ねられ、俺はたまらず統司に目を向ける。
おそらくだけれど、たくさん食べてくれた方が、たくさん休んでくれるだろう。
ただ、その分、菜々花の心は壊れてしまう。
片腕くらいならなんとかなりそうだけど、正直、胸と腕では、比べるのも難しい。
第一、最初から持っている心の量だって、比べられるものではない。
サイズに比例するのか、そもそも寝ている状態で、どういった感情を奪い取るのだろう。
無心なのか、それとも夢を見て、感情は動いているのか。
……そんなことをいま、考えてる場合じゃない。
助ける方法なら、思いついている。
ここで菜々花の食事をやめさせて、自分の片手を差し出せばいい。
自分にそこまでの影響はないだろうし、菜々花がおかしくなる危険性も減る。
その上、レイカには、たくさん食べさせられるし、長く休んでくれる可能性もあがるだろう。
俺はそれに気づいていながら、自分の左手を庇うみたいに、右手で掴んでいた。
統司が、そんな俺の右手に、さらに手を重ねる。
「……もう少しくらい、食べてもいいんじゃないか」
たぶん、統司も気づいている。
気づいていながら、俺の代わりにそう答えてくれた。
俺もレイカと同じで、自分で決め切れないのかもしれない。
自分がかわいいくせに、人のことも犠牲に出来ない。
その上、責任を逃れたい偽善者だ。
「それじゃあ、食べることにする」
また食事を始めるレイカから、視線を逸らす。
「ごめん」
俺は統司だけに聞こえるくらい小さい声で謝った。
「いえ。俺も同じです」
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