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■CASE6 レイカ 愛情なんかじゃない
私の恩人。
宮田五樹。
パパが調べて、教えてくれた名前。
彼は最後に食べるといいって、パパは言っていた。
私を刺した子のことは、食べれていないけど、詩音は、以前から少し食べていたし、もう最後と言っていい。
とにかく、私はこの人を食べてみたいと思った。
詩音だって、私が食べたい相手を食べたらいいと思うって言ってくれた。
この人の心が欲しい。
体が欲しい。
交尾をしていた2人を食べてから、私の心に火が灯ったみたい。
欲情?
恋心?
欲情は、詩音も以前から持っていた。
それを私はたまにもらっていた。
それでも、決定的ななにかではなかったのかもしれない。
さっき、詩音は私にキスをして、体をたくさん撫でてくれた。
触れて欲しいと言われて、私もたくさん詩音に触れた。
詩音の胸には、私を惹きつけるなにか魅力を感じて、揉んであげると、詩音は喜んだ。
同じように、詩音も私の胸を揉んだけど、私は別に喜びを感じなかった。
五樹に、菜々花や詩音みたいな私を惹きつける胸はないけれど、それでも触れたいと思った。
詩音に手伝ってもらって、大きめのテーブルに五樹を寝かす。
五樹のシャツを脱がせると、その胸元に触れ、口づけて、直接歯を立てた。
平らでかじりにくいけれど、少し横から、骨を避けるようにして肉をかじる。
五樹の肉を咀嚼すると、これまで感じたことのない味覚を覚えた。
甘いとか苦いとか、そういうものじゃない。
口から、体全体へと広がっていく感覚。
「これが恋心……?」
私が呟いても、誰も返事をくれなかった。
でも、誰も否定しない。
きっと、そうなのだろう。
五樹の腕を指先から順にかじっていく。
ハサミで切ったりなんかしない。
時間はかかるけど、自分の歯で、噛み切って、咀嚼して、飲み込んでいく。
ゆっくり食べると、彼の心が馴染んでいくみたいに感じた。
これまで、食事のあとは馴染ませるために休憩してたけど、ゆっくり馴染ませながら食べたらいいんだと気づく。
体が、心が、私に入り込んでくる。
もっと、私の中をあなたで満たして欲しい。
これは、本能だろうか。
テーブルの上、寝転がる五樹のズボンと下着を下にずらす。
昨日、私が見た虫のような交尾。
でも、もしかしたら違ったのかもしれない。
わからないけれど、これから私がする交尾は、たぶん違う。
好きな人と1つになるための行為なんだと思う。
1つになりたい。
五樹の性器を手に取る。
「……ねぇ、詩音。これ、どうすればいいかしら。あの人は、もっと違う形状をしていたと思うのだけど」
手にした性器に視線を落としながら、尋ねてみたけれど、返事がない。
「詩音?」
顔をあげて詩音の方を見る。
詩音はこちらも見ずに俯いていた。
食事を中断し、テーブルをおりると、五樹を運んだまま近くで立ってくれていた詩音の前に立ち、顔を覗き込む。
「詩音、泣いてるの?」
詩音の頬を掴み、顔をあげさせる。
涙を流す詩音を見て、胸がきゅうっとなるような、不快な感覚を覚えた。
罪悪感?
申し訳ない、そんな気持ち。
こんな感情、いままで味わったことがない。
五樹の感情?
わからない。
わからないけど、止めなくてはならない。
「詩音、泣かないで」
「ごめんなさい」
「どうして謝るの? いらない、いやな気持ちになってるのね?」
「あなたの幸せを……願えないから」
私の幸せ?
ああ、さっきまでたぶん、私は幸せだった。
五樹が私に流れ込んできて、ひとつになれそうだったから。
それを、詩音が願えない?
「どうして?」
「レイカのことが……好きだから」
「好きなのに、幸せを願えないのね」
わからない。
わからないけど、詩音がそのことで苦しんでいるのは理解できる。
「苦しいなら、いらない感情は、私が食べてあげる」
「……ありがとう。でも違うの」
「違う? どうして?」
「食べて、無くして欲しいわけじゃない。そういうんじゃないの。ただ……あなたが好きなだけ」
もしかして、恋心?
ああ、私が五樹を好きで、1つになりたいのと同じように、詩音は私が好きで、1つになりたいってこと?
詩音の気持ちは、私と同じ。
私が五樹に抱く感情と、同じなのだろう。
「詩音。私はあなたの幸せを願う。あなたの願いは?」
「……私を、選んで」
「食べてあげる。全部、大丈夫。1つになりましょう」
詩音の体を、味わいながら食べていく。
いま私が感じている感情がなんなのか、わからない。
愛情? 同情? ただの情?
それでも、ゆっくり入り込んでくる詩音の感情は、温かくて愛おしい。
これが幸せなのかもしれない。
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