■CASE7 立花陽一 罪

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■CASE7 立花陽一 罪

 シェフであり知り合い……いや、友人といってもいいだろうか。  ハルくんが、お嬢様を抱えて地下のケージにやって来る。  ハルくんいわく、暴れて手がつけられない人たちを、一時的に捕獲しておく場所らしい。  よく知らないけど、刑務所とか牢屋みたい。  とにかく、簡単には逃げ出せない場所だ。  そもそも館自体、出口が見当たらないんだけど。  買い出しを任されることもあるハルくんは、ちゃんと出口を把握しているらしい。 「おかえりー」 「もう、ゴロゴロしてないで、りっかもちょっとは手伝ってくれる? 今日の俺、人運んでばっかだよ」 「手伝いたくても、害虫がウロつくわけにはいかないでしょー。僕まだ、メイドさんたちに害虫だって思われてそうだし。しかも、お腹、刺されてびっくりしたんだけどー」 「はいはい、ごめんね」  ハルくんはそう言いながら、ベッドで寝転がる俺のすぐ隣にレイカをおろす。 「このお嬢様、どういう状態? 大丈夫? 上でなにがあったの」  しかたなくお嬢様にかわって、ベッドからおりると、ハルくんに上の状況を訪ねた。 「五樹くんと詩音ちゃんが食べられちゃった。レイカちゃんは、食べ過ぎて眠ってる。眠らないと、感情の過剰摂取でパニック起こしちゃうんじゃないかな。今回は、冬眠レベルに寝ちゃうかも。一応、俺の麻酔もぶっこんでるし、すぐに起きる心配はないから大丈夫だよ」  昼間、害虫扱いされた僕は、ハルくんのハサミに腹を刺されて、そのまま地下へと連れてこられた。  本当に死んだと思っていたけれど、ハルくんは急所を外してくれていて、その後、ここで換えのパーツ……パーツって言っても、なんか肉片みたいなのだったけど、それを傷口に押し込んでくれた。  お嬢様より雑だけど、一応、傷口は塞がっている。  そこで僕は、ハルくんが心を失ったフリをして使用人として働き続けていたことを知らされた。 「実際、ハルくんの心は、なくなったんだよね?」 「大部分ね。でも知能は残ってる。動画で自分の事情は理解してたし、ほとんどが換えパーツで構成された俺たちは、お嬢様のように、食事で心を吸収できるようになってたんだ。だから失ったものは食べたらいいんだってね。お嬢様の食べ残しを少しずつもらって、心を取り戻していったんだ。と言っても、他人の心をもらうわけだから、俺の性格が激変しないように、ゆっくり少しずつ、馴染ませながらね。心が芽生えて来たってことがバレたら、また食べられるから、お嬢様の前では、ただ無心に料理を作る人形に成り下がる。そうして機会を窺ってたってわけ」 「やっぱりすごいな、ハルくんは」  ちなみに、僕たちが初日に見たレイカの父親は、すでにハルくんが殺してて、メイド経由で言伝したり、誤魔化し続けていたとかなんとか。  つまり、2番目に僕が食べられる番になったのも、ハルくんの計らいなわけだけど、まあうまくいったからよしとする。  僕の次に運び込まれてきた先生と松山は、だいぶ壊れた状態みたい。  隣の部屋で、虫みたいになっていた。  その後、運び込まれてきた統司は、僕と同じ部屋で、一応、ハルくんがなにかしてたけど、麻酔が効いているのか、まだ起きていない。 「せっかくライターとヘアスプレー用意したのになー」 「使いたかったら、あとでレイカちゃん燃やすのに使えばいいでしょ。それより、階段のとこまでメイドに頼んであるから、そっから先、運ぶの手伝って」 「えー……」  一応、ハルくんの背中に隠れるようにして、階段のある場所まで向かう。 「ありがとうございます。あとはこちらで対応します」  メイドたちは、丁寧なハルくんの物言いにお辞儀をして帰っていく。 「メイドさんたち、あっさりしてるね。ハルくんの後ろに何か隠れてるって、たぶんバレバレだし、普通、疑わない?」 「疑わないよ。そんな感情持ってないからね」  それなら、1階に出て行っても、害虫だなんだと騒がれる心配は、ないのかもしれない。  そうして、階段に座らされていた五樹を、2人で運び込む。  五樹は胸や腹がえぐれてて、酷い状態だった。 「なんでこんなとこえぐれてんの」 「レイカちゃん、五樹くんのこと好きになっちゃったみたいで、いろんなとこかじってたんだよね。結構エロかった」 「えー。それ見たかったー。でもそんなん見せつけられたら、詩音怒るでしょ。ってか、詩音は?」 「嫉妬した詩音ちゃんにレイカちゃんが応えて、全部食べたからお腹いっぱいってわけ」 「全部? そのパターンもあるんだ?」 「いや、初めてじゃない? ちなみに、五樹は腕も食べられてたけど、そっちは換えパーツあったから、俺がつけといた」 「胸と腹もつけてよ」 「そんな換えパーツ用意してないし。1から作んの大変なのよ。パパさんみたいに器用じゃないからさー。殺すの早まったかも」  ホント軽率すぎる。  でも、レイカの父親は、未知の肉塊からレイカを作り上げ、人を食わせていた人間だ。  肉塊と人を使って、いろいろ実験していたみたいだし、生きてたら、僕たちもどうなっていたかわからない。 「僕がなんとかやってみる」 「いや、りっかくんよりはたぶん器用だよ」 「五樹と統司と、約束したんだよね。2人のことはちゃんと帰すって」 「約束は守らなきゃいけない……なんて、心にも思ってないでしょ」 「そんなことないよ。たぶんね」  そもそも2人とは会ったばかりだし、そんなに深い関係じゃない。  それでも、2人が僕のために動いてくれたことは理解している。 「まあ、換えパーツの材料は残ってるし、生きた標本はたくさんあるから、そこからイイの選んで食べさせれば、正気に戻るよ。統司くんの傷口にも、肉詰め込んどいたから」 「雑だなー。そのハサミになにか特別な力があるのかもしれないけど、統司は普通のナイフで刺されたんだよね?」  ハルくんは僕を見て、なぜか得意げにニヤリと笑った。 「こんなこともあろうかと、一応、致命傷になんないように、俺がレイカちゃんの肉、調理して出しといたから」 「え……?」 「初日に出したステーキと翌日のハンバーグ? ハンバーグは、あんま食べてもらえなかったけど」  お嬢様の肉塊が、僕たちの体内に入ってるってこと? 「うえぇえ……勝手に変なもん食わせないでよー。てか料理うま! 全然わかんなかった」 「お嬢様の肉、再生力抜群だからね。ま、落ち着いたら、統司には帰るかここで生きるか選んでもらお」 「オッケー。あ、一緒にグループ作るって話だったじゃん? 2人にいいもの食べさせて、メンバーにしちゃうのは?」 「あー……2人とも結構、声いいもんね。統司くんは一回、ちょっと食っとく? そんで都合いいもん入れたら……うん、いけっかも」  僕はいったい、どれだけ心を失ったんだろう。  それほど、失っていない気もする。  だけど、お嬢様の父親がしていたように、お嬢様がしていたように、人で遊ぶようになっていた。  あれだけのものを見せられたんだ。  気が狂っても、たぶんおかしくないし、自分を守りたくて、現実逃避をしているのかもしれない。  僕がその罪深さを、実感することはなかった。
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