久しぶり

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久しぶり

 武道の師範に勧められ、逸彦自身公務員を希望していたこともあり、卒業後の進路に警察官を志望し、第二位の成績で合格した。  4月の警察学校入校式の日、逸彦はまだ糊がきいて馴染まない制服に身を包み、指定された座席に座った。 「失礼……」  すると、自分の膝先を跨ぐようにして、長身の男が隣に座った。  これから寮生活になるのだから挨拶でもしておくかと顔を見た時であった。 「あっ……」 「マジか」  二人は顔を見合わせて固まった。  すっかり短髪になってしまったが、相変わらずの艶気を撒き散らした霧生久紀が目の前にいるのである。  久紀の方も、すっかり身長が伸びて大人の顔になった逸彦に驚いていた。 「逸彦!! 」 「久紀!! 」  二人は同時に声を上げ、お互いの肩を叩き合ったのだった。 「久しぶり!」 「ああ、実に四年ぶりだな」 「違いない……背、随分伸びたじゃん」  二人の心は四年の歳月を軽々飛び超え、瞬く間に昔の空気感に戻っていた。 「何とか175までいった。久紀は……制服も無駄に似合うよなぁ」 「ハハ、惚れるなよ」  パワーアップした男の艶気を惜しみなく晒し、久紀が長い足を組み替えた。 「長い付き合いになりそうだな、久紀」 「ああ」  久紀が射抜くような真っ直ぐな目で、逸彦を見つめた。 「逸彦、おまえになら、俺は背中を預けられる」  その言葉に胸が熱くなり、逸彦も深く頷いて応えた。 「俺もだ」  フッと笑い、2人は固く握手を交わした。 「そういえば、弟とは上手く行ってるのか? 」 「勿論。半年寮生活で会えないから、朝までたっぷり愛し合ってきた」 「ばか、入校初日の言葉かよ」 「おや、童貞君には刺激が強すぎたかな? 」 「ドーテーじゃねえわっ!! 」  逸彦はそう叫んで立ち上がった。 「あ……」  丁度校長が壇上に上がり、会場が静まり返った時であった。  失笑に包まれる中で、逸彦は顔を真っ赤にして座ったのであった。 「久紀ぃぃ……覚えてろよぉ」 「あ、俺、代表で挨拶しなきゃだから、行くわ」 「え……一位はおまえかっ! 」  再び絶叫した逸彦の肩を景気良く叩き、久紀は壇上へと上がっていった……。 「よう逸彦、久しぶり」  特捜の捜査員達ががやがやと戻ってくる中に、頭一つ抜き出た久紀の姿があった。並んでいる陽子に完璧な笑顔を向け、久紀は逸彦の肩を叩いて声を掛けたのであった。 「別に会いたかないが、来てやったぞ」 「あらご挨拶……資料、クソ重たかったろ、(わり)ぃな」 「これも法令指導第二係のお役目だ。じゃ、またそのうち」 「ああ、また飲もう」  それだけ言葉を交わすと、久紀はまたマル暴の顔に戻って特捜本部の会議室に駆け込んでいった。   「相変わらずラブラブねぇ、あんた達」 「ただのド腐れ縁ですよ」  良く言うわと、好みの色男二人に会えてゴキゲンの陽子が、笑いながら去っていった。  まぁ、一人くらい、こんなド腐れ縁の親友がいても良い……帰りにいつものバーで一杯引っかけたくなり、逸彦は足早に署を後にしたのだった。         〜ド腐れ縁〜                                 了  
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