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エピローグ
「こうして亡国の龍姫は幸せになったんだ。おしまい」
そう言って口を閉じ、視線を落とすと麗子と同じ黒髪の孫娘リリーがほうと息をつく。
「ねぇ、お祖父さま、りゅうきはどこに行ったの?」
「ここにいるよ。お母様に聞いてごらん」
リリーは頷いて走っていった。リリーにねだられて少しずつ話していた麗子の話ももう終わりだ。麗子は幸せになった。色々あったが二人の子の母になった彼女は幸せそうに笑う。
重すぎる荷を置いて彼女は良き妻、良き母になった。
かつてサラにねだられてした話を孫娘、まして龍のお姫様その人の娘にする日が来るとはあの日は思ってもみなかった。
「お義父様、また私の話をされたんですか?」
嬉しそうにまとわりつくリリーを連れて麗子が来た。相変わらず美しくかわいらしい姫だとぼんやり思う。
「喜ぶものだからね。嫌でしたか?」
「いえ、そういうわけではないのですが、史書がやっと完成したので」
「それはよかった。写本をいくつか作って王宮の書庫に寄贈してもいいですか?」
「そうしていただけると嬉しいです。龍生があった証なので」
レナートはゆっくりと頷き、白髪の混じった髪をかき上げる。
「皇王麗子、あなたの書いた書物はきっと歴史に残るでしょう」
「そうなると信じたいです」
その時、不意と現れた天耀がリリーを抱き上げる。
「姫よ、午後は吾と勉学の約束だったではないか」
「忘れてたの、ごめんなさい、天耀」
天耀はリリーと額をくっつけてぐりぐりしてから連れて行った。守護神にとって子守りも重要な仕事であるらしく、よく面倒を見ている。ナニーや教育係が不要なほど有能なシッターは彼をおいてほかにいないだろう。
「すべての始まりはあなたとの出会いだったのかもしれませんね」
「そうかもしれませんね、麗子姫」
悲しみや苦しみは過去のものになり、今はただただ平穏な時が流れる。
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