ひまわり

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若葉は2歳で親に捨てられ、ひまわりに預けられた。明るくて優しくて、秀華だけでなく、施設にいる子どもたちみんなから慕われていた。 特に秀華のことは人一倍大切にしてくれた。 若葉は料理が得意で、将来自分の店を持つのが夢だと常々語っていた。 秀華には、そんな若葉との約束がある。 「私、大人になったらお金持ちになって、若葉にお店を買ってあげる」 「え⁉︎」 「お店、買ってあげる」 「秀ちゃん、買ってあげるって簡単に言うけど、きっととんでもないくらいのお金が必要だよ」 「大丈夫、大富豪になるから」 大富豪と聞いて目を丸くしていた若葉だが、 「秀ちゃんなら本当に大富豪になりそう」 ふわっと柔和な笑みを浮かべた。 「じゃあ約束ね」 「うん!」 秀華9歳、若葉11歳、二人で指切りをした。 一年後、若葉は小学校を卒業し、親戚だと名乗る大人に連れられ、ひまわりを出て行った。 それから音信不通だったのだが、突然施設に手紙が送られてきた。 高級料亭の暖簾を背に、着物姿で佇む写真も同封されていた。 《住込みで仲居の仕事をしています。時々料理も教えてもらっています。女将さんのように、いつか自分のお店を持てるように頑張っています》 若葉、16歳の夏だった。 同じ年の同じ季節、秀華14歳。 秀華も新たな道を歩もうとしていた。 長尾拓郎(ながおたくろう) その男性は突然やって来た。 亡くなった秀華の父、五十嵐秀徳(いがらしひでのり)の同僚だという。 生前、娘のことを頼むと言われていたらしい。 仕事の関係でアメリカに住んでおり、なかなか迎えに来れなかったということだった。 同僚とはいえ、犯罪者の娘の面倒をみるなんて、何か裏があるに違いない。どこかに売り飛ばすつもりではないのだろうか。 14歳の秀華は、長尾に対して疑念を抱かざるを得なかった。 だが、長尾の一言でそれは一変する。 長尾に着いて行くことを決めたのだ。 「君のお父さんは犯罪者なんかじゃない。濡れ衣を着せられたんだ。五十嵐は無実だ!」 衝撃だった。 今まで誰一人として、父親の味方をしてくれる人はいなかった。氏名も五十嵐秀華から、母の姓である瀬上(せがみ)に変えた。 母親も、夫が犯した罪に苛まれ、心を病み自ら命を絶った。 犯罪者の娘だと後ろ指をさされながら生きて来た秀華にとって、長尾拓郎という人物が神に見えた。 長尾から差し出された手を取り、秀華はひまわりをあとにした。
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