114人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
若葉は2歳で親に捨てられ、ひまわりに預けられた。明るくて優しくて、秀華だけでなく、施設にいる子どもたちみんなから慕われていた。
特に秀華のことは人一倍大切にしてくれた。
若葉は料理が得意で、将来自分の店を持つのが夢だと常々語っていた。
秀華には、そんな若葉との約束がある。
「私、大人になったらお金持ちになって、若葉にお店を買ってあげる」
「え⁉︎」
「お店、買ってあげる」
「秀ちゃん、買ってあげるって簡単に言うけど、きっととんでもないくらいのお金が必要だよ」
「大丈夫、大富豪になるから」
大富豪と聞いて目を丸くしていた若葉だが、
「秀ちゃんなら本当に大富豪になりそう」
ふわっと柔和な笑みを浮かべた。
「じゃあ約束ね」
「うん!」
秀華9歳、若葉11歳、二人で指切りをした。
一年後、若葉は小学校を卒業し、親戚だと名乗る大人に連れられ、ひまわりを出て行った。
それから音信不通だったのだが、突然施設に手紙が送られてきた。
高級料亭の暖簾を背に、着物姿で佇む写真も同封されていた。
《住込みで仲居の仕事をしています。時々料理も教えてもらっています。女将さんのように、いつか自分のお店を持てるように頑張っています》
若葉、16歳の夏だった。
同じ年の同じ季節、秀華14歳。
秀華も新たな道を歩もうとしていた。
長尾拓郎
その男性は突然やって来た。
亡くなった秀華の父、五十嵐秀徳の同僚だという。
生前、娘のことを頼むと言われていたらしい。
仕事の関係でアメリカに住んでおり、なかなか迎えに来れなかったということだった。
同僚とはいえ、犯罪者の娘の面倒をみるなんて、何か裏があるに違いない。どこかに売り飛ばすつもりではないのだろうか。
14歳の秀華は、長尾に対して疑念を抱かざるを得なかった。
だが、長尾の一言でそれは一変する。
長尾に着いて行くことを決めたのだ。
「君のお父さんは犯罪者なんかじゃない。濡れ衣を着せられたんだ。五十嵐は無実だ!」
衝撃だった。
今まで誰一人として、父親の味方をしてくれる人はいなかった。氏名も五十嵐秀華から、母の姓である瀬上に変えた。
母親も、夫が犯した罪に苛まれ、心を病み自ら命を絶った。
犯罪者の娘だと後ろ指をさされながら生きて来た秀華にとって、長尾拓郎という人物が神に見えた。
長尾から差し出された手を取り、秀華はひまわりをあとにした。
最初のコメントを投稿しよう!