アザミの誕生

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アザミの誕生

長尾に連れられやって来たのは、都内高層マンションの一室だった。 「凄い! おじさん、ここに住んでるの?」 「あぁ、眺めがいいだろう」 「うん! こんな家、テレビでしか見たことない」 「気に入ったか?」 「うん! おじさんお金持ちなの?」 「そうだなぁ、金はある」 「社長さん?」 「社長か…… 会社は経営してないから違うな」 「何してるの?」 「知りたいか?」 「うん!」 「こっちにおいで」 長尾はある部屋のドアをスライドさせた。 「………」 目の前の状況に秀華は目を見開いた。 「俺の商売道具だ」 薄暗い部屋には、数台のパソコンとモニター画面が、デスクを囲むように配置されていた。 モニターには意味不明のアルファベットや数字が並んでいる。 そして、社長室にあるような革張りの黒い回転式の椅子が存在を主張していた。 「何、これ……」 「悪い奴らの悪事を見つけ出して、懲らしめるための道具さ」 「えっ⁉︎ これ、パソコンだよね? これで悪い奴らを懲らしめることができるの?」 「あぁ」 「どうやって?」 「秀華も悪い奴らを懲らしめたいか?」 「うん!」 「じゃあ、まずは勉強だな。これを使いこなすには知識が必要だ。これは武器だからな」 「あ……」 「ん? どうした?」 「良くんと同じこと言ってる」 「良くん?」 「ひまわりにいたお兄ちゃん。もういないけど。私、良くんにいっつも言われてた。勉強は裏切らない。知識は自分を守る武器だ。だから、嫌いでも頑張って勉強するんだ。将来、そうやって学んだことが、きっと秀ちゃんを助けてくれるからって」 「そうか、秀華はいい兄ちゃんに出会ったな」 「うん!」 「これから俺が教えてやる。だが一つだけ、お前に言っておかなければならないことがある」 「何?」 「俺たちの仕事は、誰にも知られてはいけない。その良くんとやらにもだ。知られてしまったら、悪党どもを野放しにしなければならなくなる。内緒にできるか?」 「言わない。誰にも言わない。約束します、師匠!」 「師匠! 師匠か……うん、悪くないな。秀華、これからビシビシいくからな、覚悟しろ」 「はい! 師匠」 後に秀華は知った。長尾が世界的ハッカー 【Take(テイク)】だということを。 そして、会社の金を横領し逮捕され、獄中で病死した秀華の父、五十嵐秀徳の濡れ衣を晴らすため、人知れず動いていたことを……
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