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これまで授業でしか触ったことがなかったパソコン。初めのうちは何がなんやらさっぱりだった。だが、長尾からシステム開発とプログラミングの手解きを受け、自分が作ったものが形になっていく喜びを覚えた。
秀華が初めて手がけたシステムは、相性診断のようなアプリだ。想い人の行動や言動を入力すると、その人がどういう相手を求めているのかがわかるというもの。
付き合う前や結婚前に知ることができれば、傷ついたり、嫌な思いをしなくて済むのではないのかと考えたからだ。
ひまわりには、両親の喧嘩を何度も目の当たりにしてきた子供たちが多くいた。
そんな思いがあったこともあり、作ってみることにしたのだ。
開発にあたってのデータは、国内に設置されている防犯カメラ映像を拝借し、会話、表情、行動などを収集し分析した。
出来上がったものを長尾にやらせてみると、なかなか面白いと褒められた。しかし、防犯カメラの映像を勝手に入手したことで長尾に叱られてしまった。
「お前の手は汚したくなかったんだがな」
そう言った長尾の表情はとても悲しげだった。
不正な手を使い作ったアプリは秀華の自信作ではあるものの、もちろん世の中に出回ることはない。中学3年に進級したばかりの頃だった。
そして気がつけば、プログラミングの世界にどっぷりとはまっていた。
長尾の教えをスポンジが水を吸うように習得していく秀華。エンジニアとしての能力の高さは明白だった。
『五十嵐、さすがお前の娘だ。とても優秀だよ。もしかしたら秀華は、国を相手にするほどのエンジニアに成長するかもしれないな』
長尾は心の中で、今は亡き親友に語りかけた。
「秀華、何か夢はあるのか?」
長尾が唐突に訊く。
「ある。お金持ちになる」
パソコンに向かう秀華は迷うことなく答えた。
「金持ちになって何をするんだ?」
「若葉にお店をあげる」
「若葉に店?」
「若葉は私のお姉ちゃんみたいな人」
「施設にいるのか?」
「ううん、いない。今、住込みで仲居さんやってる。将来自分のお店を持ちたいんだって」
「そうか、だったら秀華、中学を卒業したらアメリカに行け」
「え⁉︎ 」
「お前は日本にとどまっていてはいけない。アメリカに渡って語学と腕を磨け。お前に語学が備われば百人力だ。サイバー攻撃から善良な企業を守ってやれ。そして報酬をたくさんもらうんだ。がっぽり稼いで金持ちになって、若葉さんに店をプレゼントしてやれ」
「うん! でも高校は?」
「高校は通信制の高校を卒業すればいい。しっかり単位を取ればちゃんと三年で卒業できる」
「師匠はアメリカ行かないの?」
「俺はこっちでやることがあるからな」
「そうなんだ……」
「大丈夫だ、お前なら出来る。なるんだろう?
金持ちに」
秀華は力強く頷いた。
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