若葉という存在

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若葉という存在

アメリカで安定した生活を送っていたある日、 秀華を地獄に突き落とす知らせが飛び込んできた。 若葉が入水自殺を図った。 「うそ……だ……」 「嘘じゃない」 電話は良一からだった。 「うちの救命に運ばれて緊急処置を行ったが、意識は戻っていない。ひまわりの園長に遺書が届いた」 「良くんの嘘つき」 「秀ちゃん……」 そんな事、あるわけがない。 あるわけがないのだ…… ***** 半年前、高校卒業に必要なスクーリング出席のため、一週間ほど一時帰国していたことがある。 長尾に引き取られた後は、長尾の本職のこともあり、人との接触は極力避けていた。 若葉も良一も例外ではない。 表向き職業はプログラマーの長尾。誰にもハッカーだということを悟られてはならない。 常に警戒心は抱いておかなければならなかった。 一歩外へ出れば、迂闊に長尾やシンディーを実名で呼ばないよう、主語無しで会話することを心がけた。秀華にとって、それが日常だ。 ちなみに、シンディーと一緒に外出した時は、彼女のことをマーガレットと呼んでいる。 ひまわりを出てからの生活は、充実している一方、大好きな若葉に会えない寂しさが、気付かないうちに限界を超えてしまっていた。 アメリカに戻る前日、若葉の姿を遠目にでも見ることができたらそれでいい。元気な姿を見ることができれば、それで…… そんな思いが秀華を支配し、自ずと足は料亭に向かっていた。
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