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しばらく歩くと、店の前に人影が見えた。秀華はゆっくりと近づき、ある程度の距離で立ち止まった。
割烹着姿の女性が、料亭の門周りを竹箒で掃いている。
「若葉……」
後ろ姿ではあったがすぐに確信した。ずっとこの背中に守られ暮らしてきたのだ。大人になっても変わらないその姿に、愛しさや懐かしさといった様々な感情が込み上げた。
人は欲深い生き物だ。遠目にでも見ることができればそれでいい。そう思っていたのに、秀華は溢れる思いを抑えることができなかった。
気持ちより先に足が動く。
足音に気がついたのか、若葉が振り返った。
「秀ちゃん!」
目を瞬かせている
無理もない。若葉がひまわりを出て以来、ずっと会っていなかったのだ。
竹箒が手から離れ落ち、カタンと音を立てる。
「秀ちゃん、よね?」
「うん、そうだよ」
「ホントに秀ちゃんよね?」
「うん、お化けじゃないよ」
「背も伸びて、私より高くなってる! すっかりお姉さん。でも、その笑顔は全然変わってない」
若葉は目を潤ませ、秀華を抱きしめた。
「秀ちゃん、元気そうで良かった」
「うん、若葉も元気にしてた?」
「ええ、元気よ」
微笑みながら秀華の髪を撫でる若葉は、変わらず全てを包み込んでくれる優しい姉だった。
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