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「秀ちゃん、顔、よく見せて」
秀華の頬を包み込む若葉の両手は、水仕事のせいだろうか、指先はかさついて、あかぎれよのうな傷がある。
若葉の手に秀華は自分の手を重ねた。
「若葉、指……」
「これね、私の勲章。結構頑張ってるのよ。ここで働かせてもらって数年経ったけど、今では色々なことを任せてもらえるようになったの。大変なことも多いけど、その分、嬉しいこともたくさんある」
「充実してるんだね」
若葉は笑顔で頷いた。
「秀ちゃんは? 全く連絡取れなかったけど、辛い思いはしてない?」
「大丈夫だよ。私も毎日充実してる。今、東京には住んでないんだよ」
「そうなの?」
「うん。今日はこっちに用事があって、久しぶりに戻ってきたの。どうしても若葉の顔が見たくて来ちゃった」
「事前に連絡くれれば良かったのに」
「私、携帯持ってないんだよ。高校卒業するまで、いらないって言ってるの」
「そっか……じゃあ、これからも秀ちゃんとは連絡取れないの?」
「うん、ちょっと難しいかもしれない。だけどね、ひまわりの園長先生に言ってくれれば、園長先生が私の親代わりの人に連絡くれるようになってる」
「そうなんだ。何かあったら園長先生に言えばいいんだね」
「うん」
「わかった。もう、今日戻っちゃうの?」
「ううん、明日」
「そっかぁ……ねえ、秀ちゃん、これからうちに来れない?」
「うち?」
「古くて狭いところなんだけど、私、一人暮らししてるの」
「えっ!住込みじゃなくなったの?」
「住込みは半年前に卒業」
「そうだったんだ」
「行きたいなぁ、若葉の家」
「私、掃除が終わったら今日はもう上がりなの。あと30分くらいかな? 駅前にレトロカフェがあるから、そこで待っててくれたらいいんだけど」
「うん! 待ってる」
「じゃあ決まり。後でね」
若葉は竹箒を拾い上げると、軽やかな足取りで店の中へ入って行った。
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