若葉という存在

5/13

114人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
窓際の席に陣取り、オレンジジュースを飲みながら若葉を待つ。しばらくすると、ジーンズ姿の若葉が秀華を見つけ、軽く手を振った。秀華も笑顔で手を振り返す。 「お待たせ」 「若葉、お仕事お疲れさま」 「うん、ありがと。秀ちゃんオレンジジュース飲んでたのね」 「うん」 「相変わらずオレンジジュース好きだね」 「覚えててくれたの?」 「もちろんよ」 若葉は席に腰掛けると、メニューに目を通し、アールグレイを注文した。 運ばれてきた紅茶のカップを持つ手はしなやかで、口につける大人っぽい仕草に見惚れてしまった。 「どうしたの?」 「若葉、素敵な女性になったね」 「え⁉︎ な、なに、突然!」 「昔はリンゴジュースだったのに」 「うふふっ、そうだったね」 穏やかに笑う表情も色香が漂っている。 『男がいる、のかな……』 直感だ。 「若葉、彼氏いる?」 唐突な問いかけに咽せてしまったようだ。 「い、いきなり?」 「答えたくなければ答えなくていいよ」 「隠すことでもないし、白状します。いる」 直感は侮れない。 「幸せ?」 「うん」 「そっか」 少々寂しさはあるが、若葉が幸せならばそれが一番だ。 「私、若葉の家行っていいの? 彼氏、来るんじゃないの?」 「大丈夫よ、今日は飲み会なんだって」 「そうなんだ」 「私、肉じゃが作ったんだけど、作りすぎて何日も食べなきゃいけなくなってて、秀ちゃん、よかったら消費するの手伝ってくれない?」 「食べたい! 肉じゃが食べたい! 若葉の作った肉じゃが全部食べたい!」 「全部って、量見たらびっくりするかも」 「大丈夫、若葉の作ったものなら底なしに入る自信あるし、お腹も壊さない」 「うふふっ、ありがとう秀ちゃん」 若葉が紅茶を飲み終えるのを待って店を出た。 電車に揺られ30分。改札を抜け、徒歩10分ほどの場所に若葉のアパートはあった。 年季の入った木造二階建。 リフォームは済んでおり、和室と洋室に3畳ほどのキッチン。 古いながらも、若葉らしさを醸し出した清潔ですっきりとした部屋だった。 ただ、一階の角部屋だったので、でセキュリティ面には不安を覚えた。 だが、若葉は 「周辺はファミリー層が多く住んでるし、鍵も防犯用にもうひとつつけているから大丈夫だよ」 秀華の不安をよそに微笑んだ。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

114人が本棚に入れています
本棚に追加