若葉という存在

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久しぶりに食べる若葉の手料理。 文句なしに美味しい。 鍋いっぱいだった肉じゃがは、みるみるうちに減っていった。 「秀ちゃん、お腹大丈夫?」 「え?」 若葉がおもむろに秀華のお腹を触る。 「ほら、お腹パンパン」 「え……」 「秀ちゃんは相変わらずね。好きなものはホントに底なし。お餅だってそうだった。嬉しいよ、私の作った肉じゃがを本当に気に入ってくれたってことでしょう?」 「気に入るどころの話じゃないよ。私にとっては最高の料理。若葉、お店を持ちたいって夢、変わってないの?」 「うん、いつになるかわからないけど、小さくてもいいの。お客様がほっと一息つけるようなお店にしたいって思ってる。今、少しずつ貯金もしてるの。投資もやってるんだよ。料亭の常連さんで、メガバンク勤めの人がいるんだけど、無理のない程度にやってみるのもいいんじゃないかって勧めてくれたの。女将さんも、凄く信頼してる人なのよ。株って聞いて、最初は気乗りしなかったんだけど、失敗して損しても諦められる程度の額だから、やってみることにしたの。ちょっとした冒険だね。あっ、そうだ、秀ちゃん、昔言ってたよね。若葉にお店買ってあげるって」 「うん、言った。ちゃんと覚えてるよ。今でもそう思ってるから」 「うふふっ、ありがとう。じゃあ、お店の内装とか一緒に考えてくれる?」 「うん! でもいいの?」 「もちろんよ」 「楽しみだなぁ」 「ホントね。良くんに常連になってもらおうか」 「うんうん」 若葉と過ごすこの時間が永遠に続けばいい。 秀華は、しばらく会えなくなる寂しさを埋めるように、尊い時間を噛み締めていた。 だが、穏やかな時間を引き裂くように若葉の携帯が着信を告げた。
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